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過去からの手紙と、今ここにいる理由
その日の夕方。
エマの部屋の机に、ひとつの封書が置かれていた。
この世界に来る前、
前の職場で書きかけていた“自分宛てのメモ”だった。
『私は、誰にも必要とされない』
読み返した瞬間、胸が痛くなる。
(そうだ……あの頃の私は……)
そこへ静かに扉が開き、
リュカがそっと入ってきた。
「エマ?」
「……うん。ちょっと昔を思い出しただけ」
リュカはエマの手元の紙を見て、
理解したように小さく息を吸う。
「それは、おまえが一番……苦しんでいたときだ」
「……そうかも」
「だが——もう違う」
リュカはゆっくり手を伸ばし、
エマの頬に触れた。
「エマは……俺に必要だ。
誰より、何より。
おまえがいなければ、俺は生きていない」
「大げさ……」
「本当だ」
あまりにも真剣な声。
「だから、過去のおまえを……
今のおまえが救ってやれ」
「……救えるかな」
「救える」
「どうして言い切れるの?」
「エマが今こうして、俺のそばにいるからだ」
エマはそのまま涙がこぼれそうになった。




