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“名前を呼ぶ理由”が、重くて甘い
夜。
暖炉の前で、エマは一息ついていた。
するとリュカがゆっくり隣に座る。
「エマ」
「うん?」
「何度呼んでも……足りない」
唐突な言葉にエマは目を丸くする。
「ど、どうしたの急に……」
「今日、誰かが外でおまえの名前を呼んだな」
「え……ああ、旅人さんが……」
「それが気に入らない」
「また嫉妬……!」
「おまえの名前を呼んでいいのは、俺だけでいい」
胸がぎゅっとなる。
リュカは、エマの髪をそっと耳にかけながら続ける。
「名前を呼ぶたび、おまえが俺を見るだろう」
「それは……見ちゃうよ」
「それがいい」
紫の瞳が、静かに揺れながらエマを映す。
「エマという名前は……
“俺とつながるため”にある気がする」
「……そんなこと……」
「本気で言っている」
エマは言葉を失う。
胸が苦しくなるほど嬉しくて、
思わず顔を伏せた。
「……そんな重い言葉、反則だよ……」
リュカはエマの頬に指を触れ、囁く。
「反則でもいい。
おまえが俺だけを見てくれるなら」
火の揺らぎが二人を包み、
距離が静かに近づいていく。




