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“離れすぎた手”が招く不安
夕暮れ。
塔へ戻る途中の道で、エマは少しだけ前を歩いていた。
ほんの数歩の距離。
でも、その距離のせいで背後で足音が止まった。
「リュカ?」
「……エマ」
低い。
不安を押し殺した声。
「遠い」
エマは思わず振り返る。
「え……このくらい、遠いって言わないよ?」
「俺には遠い」
風がふっと揺れる。
「手が……届かない」
エマの胸がしんと痛む。
(……こんな表情、初めて見た)
そっと歩み寄り、彼の手に触れた。
「じゃあ……つなぐ?」
「……つなぎたい」
指が絡み、ぎゅっと握られる。
「これなら、安心する?」
リュカは小さく頷いた。
「……する」
その声は、子どものように素直で優しくて——
胸の奥が温かさで満たされた。




