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“見られたくない人には見せたくない”嫉妬の構造
昼過ぎ。
庭で花を摘んでいると、通りがかった旅人の男女が声をかけてきた。
「きれいな庭だね! 君が育てたの?」
「え、えっと……私は——」
「エマ」
後ろから声が落ちた。
リュカだ。
低い声。
静かなのに、背筋が伸びる気配。
「これ以上、近づくな」
旅人たちは驚いて目を丸くする。
「い、いや……ただ褒めただけで……」
「褒める必要はない」
「え、えぇ……」
結局、旅人たちはそそくさと去っていった。
エマはリュカに向き直る。
「ちょっと、今のはさすがに……!」
「見られたくない」
「え?」
「おまえが花に囲まれて笑っている顔を……
他の誰かに見られたくない」
胸が強く震える。
「それは……嫉妬?」
「当然だ」
即答だった。
「おまえの“綺麗な瞬間”は全部、俺だけが見たい」
(……なんでそんなこと言うの……)
胸が甘く、苦しく、熱くなる。




