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“エマ専用の庭”が生まれた理由
朝。
塔の裏庭に出たエマは、思わず目を見張った。
小さな庭だったはずが——
花畑になっていた。
「……え、なにこれ……」
淡い紫や白の花が一面に広がり、
風に揺れて光の粒を散らす。
「エマが好きな色を植えた」
後ろからリュカの声。
「リュカ……あなた、こんな広範囲を……ひとりで?」
「当然だ」
「当然じゃないよ!? どれだけ時間かかったの!?」
「問題は時間ではない」
彼は淡々と続ける。
「エマが疲れたとき、この花を見て休めるようにしたかった」
胸がきゅっとなる。
「……そんなふうに考えてくれてたんだ」
「当たり前だ。
おまえが笑う場所は、俺が作る」
花畑を見渡すと、どこにも影がない。
エマのため“だけ”に作られた景色だ。
「……ありがとう。ほんとに綺麗」
「綺麗だと感じるおまえが、もっと綺麗だ」
「……言うと思った!!」
でも、耳まで熱くなっていた。




