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少しの距離が、彼には耐えられない
その日の夜。
エマは自室で日記を書いていた。
すると、扉が静かにノックされる。
「エマ」
「入っていいよ」
ゆっくり扉が開き、リュカが姿を見せた。
「……いるとわかっていても、
扉の向こうにおまえがいるのは……落ち着かない」
「えっ」
「距離があるのが……嫌だ」
珍しく、視線をそらした。
「昼間……少しだけ“離れる可能性”を考えた。
ただの封筒だったのに。
……それが、怖かった」
あの招待状を破った理由がわかってしまう。
「……私、逃げたりしないよ」
「言葉だけでは足りない」
「じゃあどうしたら安心するの?」
リュカはゆっくり歩み寄り、
エマの手を包んだ。
「手を……握っていてほしい」
「そんなことで……?」
「そんなこと、ではない。
俺にとっては、必要だ」
その声はあまりにも真っ直ぐで、
エマはそっと手を握り返した。
「……はいはい。握るよ」
「……ありがとう」
ふっと、彼の肩の力が抜けたのを感じた。




