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“エマ専用魔法図鑑”が完成した日
書庫の机に、ずっしりとした一冊の本が置かれていた。
「……これ、なに?」
「エマ専用だ」
リュカは淡々と答える。
「おまえが覚えるべき魔法だけを選び、再編集した。
余分な情報はすべて削った」
「削ったって……この分厚さで!?」
試しに開くと、ページの端々に細かい注釈がついていた。
“ここはエマの苦手な部分。ゆっくり読め。”
“この魔法は使いすぎると疲れる。無茶をするな。”
“危険。リュカ同行必須。”
……過保護の塊だ。
「リュカ、これ全部あなたが……?」
「当然だ」
「睡眠時間は?」
沈黙。
「リュカぁぁぁ!!」
「苦ではない」
「苦だよ!!」
エマが本を抱えたまま泣きそうになると、
リュカはそっと手を伸ばし、本を閉じた。
「エマが学ぶためなら、何日徹夜しても構わない。
だが……そんな顔をされるなら、考える」
「……嬉しいよ。すごく。でも、無理はしないで」
「おまえのための無理ならする」
「しないで!!」
それでも胸は、温かい。
自分のために誰かが何かを作ってくれる――
それが、こんなにも嬉しいなんて。




