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小さな事故、そして大きな保護欲
市場を出る途中、
エマは足元の小石に軽くつまずいた。
「わっ……!」
倒れる前に、すぐ腕が伸びる。
「エマ!」
リュカが素早く抱きとめた。
「危ない」
「ご、ごめん……」
「謝るな。地面が悪い」
「地面に責任押しつけないで!?」
だが彼の手は震えていた。
エマは気づいてしまう。
「……リュカ、そんなに怖かったの?」
「当たり前だ。
おまえを傷つけるものは全部排除したい」
「排除……」
「この街の石畳も見直させる」
「魔王かな!?」
それでも、抱きしめる腕の強さはとても優しくて、
胸の奥が暖かくなる。
「エマが無事ならそれでいい」
「……うん」
二人の影が静かに重なる。




