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街の喧噪と、すぐ隣の影
外出日。
魔材を買うために市場へ行くと、
いつも以上に人が多かった。
「今日は祭りがあるのか?」
「そうみたいだね……わ、ちょっと押され――」
人混みに押し流されそうになった瞬間、
ぐいっと腰を引き寄せられた。
「エマ」
低い声。
リュカの腕がしっかりと腰に回されている。
「離れるな」
「離れたくて離れてるんじゃないよ!?」
「おまえは小柄だ。埋もれる」
「言い方!」
人の波の中でも、彼の手だけは強く、
確かにエマを支えていた。
そして、彼の視線は人々を容赦なく牽制していく。
(……こういうところ、好きだな)
胸がそっと熱を帯びた。




