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“エマのための”魔法講義が始まってしまった
朝食後、リュカが唐突に言った。
「今日から、おまえ専用の魔法講義を始める」
「え、急に!?」
「必要だと思った」
塔の書庫に並べられた分厚い魔導書たち。
机の上には、エマ用にまとめられた丁寧なノートが積まれていた。
「ちょっと待って……このノートって、全部あなたが書いたの?」
「当然だ」
当然と言うには量がおかしい。
ひと晩で書ける量じゃない。
「昨日……寝てなかったの?」
沈黙。
「リュカ!?」
「おまえのためだ。苦ではない」
苦じゃないわけがないのに。
エマの胸がきゅっとなる。
「……ありがとう。すごく嬉しいよ」
「嬉しいなら、全部覚えろ」
「プレッシャー!!」
だが、講義は驚くほどわかりやすかった。
おそらく――
“エマが理解できるように”計算し尽くされている。
(……本当に、私だけのためなんだ)
嬉しくて、泣きそうだった。




