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塔の門番が“エマにだけ優しい”理由
ある日の朝。
塔の玄関に立っていた石像のゴーレムが、エマに向かってぺこりと頭を下げた。
「えっ……動いた!?」
「エマ様。おはようございます」
「しゃべった!?」
リュカが後ろから歩いてくる。
「おまえ専用に調整した」
「専用!?」
「俺以外で、おまえに触れようとした者は排除するようにした」
「排除って言葉怖いよ!?」
ゴーレムはエマに対してだけ柔らかい声で応対するが、
さきほど通りがかった旅商人には――
目を光らせ、低く唸っていた。
「なんで私には優しいの?」
「エマを識別しているからだ。
おまえは“保護対象”だ」
「保護対象……」
心が少しだけ、熱くなる。
リュカは何気なく言う。
「安心しろ。おまえを傷つけるものは、すべて消す」
「消すって言葉の選び方が重いの!」
「安全のためだ」
(安全のために世界が振り回されてる気がするんだけど……)
でも、“守りたい”という気持ちは確かに伝わった。




