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離れる前提の話をすると、彼は必ず止める
王都からの使者が来たあと。
エマはふと不安になって、小さく呟いた。
「……もし私が国に呼ばれちゃったら、どうする?」
冗談のつもりだったのに、リュカの表情が一瞬で変わる。
「エマ」
低く、深い声。
「二度と……そんなことを言うな」
「え……」
リュカはエマの手首を掴み、静かに言葉を落とす。
「おまえが――どこかへ行く可能性のある話は、全部嫌だ」
「……そうだよね。ごめん、心配させた」
「心配ではない。恐怖だ」
エマは言葉を失う。
紫の瞳が、苦しげに揺れていた。
「おまえがいなくなる想像は……俺には、耐えられない」
「……そんなに、なの?」
「そんなに、だ」
そっと抱き寄せられ、エマの胸が強く締めつけられる。
「……大丈夫だよ」
「何がだ」
「私はここにいる。どこにも行かないよ」
リュカは息を吐き、エマをそっと抱きしめた。
「……なら、いい」
その声は、安堵で震えていた。




