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王都からの使者が来た日
その日、塔に王都からの使者が来た。
「塔の主リュカ殿。王よりの勅命にて――」
「帰れ」
「即答ォ!?」
エマが慌てて横から止める。
「リュカ、せめて話くらい聞こうよ!」
「聞く価値がない」
「国の偉い人だよ!?」
「だからだ」
よくない意味で納得してしまう。
使者は困惑しつつ、説明を続ける。
「リュカ殿の弟子……その、“エマ殿”を王城に招きたいと――」
「断る」
「即答二回目!!」
使者が青ざめるのを尻目に、リュカは淡々と理由を述べた。
「エマは俺の弟子だ。
塔から離れる理由はない」
「国の要請ですよ!?」
「知らない」
「知らないと言った!!?」
エマは小声でリュカに囁く。
「落ち着いて、ね?」
「落ち着いている」
「嘘つけ、目が怒ってるよ……!」
結局、使者は何もできずに帰っていった。
(……でも、そこまで大事にされるなんて……)
胸が、静かに熱くなる。




