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塔の主は、美しすぎた
階段を降りると、広いホールの中央に男が立っていた。
長い黒髪をリボンでひとつにまとめ、深い群青色のローブを纏った青年。
氷のように冷たい紫の瞳が、こちらを振り向く。
瞬間、全身に鳥肌が立った。
(え、ちょっと待って、ビジュアルのレベルおかしくない?)
「……ただいま戻った、エマ」
呼ばれた名前に、胸が跳ねる。
「は、はい、先生。お、お帰りなさいませ」
舌がもつれそうになる。
彼はゆっくりと歩み寄り、当たり前のようにエマの頭に手を置いた。
「留守のあいだ、よく留守番をしていてくれた」
指先が、やわらかく髪を撫でる。
その仕草は穏やかなのに、瞳の奥で何かが底なしに揺れていた。
「……会いたかった」
小さく呟かれたその声に、言いようのない熱が滲んでいた。




