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“次の街には行かせない”宣言
塔に訪れた商人が、外の街の話をしていった。
「北の都はすごい繁栄らしいよ。塔の弟子さんも一度は――」
「行かない」
リュカが割り込むように言い切った。
「あっ……はい……」
商人はすぐに帰っていった。
エマは椅子から立ち上がり、リュカを見つめる。
「リュカ、さすがに今のは……」
「おまえが行きたいのか?」
紫の瞳が揺れる。
「行きたいのなら……俺も全て捨てる」
「え、いや、そうじゃなくて!」
「塔も、職も、研究も、おまえのためならどうでもいい」
「そこまで言われたら……逆に動けなくなるよ……」
リュカは静かに、しかし確実にエマの手をとる。
「エマが望まない限り、遠くには行かせない。
おまえが“帰ってこない可能性”がある場所には……絶対に」
エマは思わず息をのんだ。
(……そこまで恐れてるの?)
悪い意味ではなく、
エマという存在を心の芯で大切にしているのが伝わってきた。
「……ずっと一緒にいたいから、だよね?」
「当然だ」
「……そんなふうに言われたら、離れられないじゃん……」
「離れる気は許さない」
(はいはい……そうなるよね……)
でも、嫌じゃなかった。




