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“かわいい”と言われた日のこと
塔の書庫で紙を整理していたとき。
リュカがふいに呟いた。
「……エマは、かわいいな」
「えっ」
紙を落としそうになる。
「い、いま……なんて言ったの?」
「かわいいと言った」
淡々とした声なのに、目だけが真剣だった。
「か、かわいいって……私に?
え、ええ……そんな、唐突に……」
動揺しているエマを見て、リュカは少し考えるような表情になった。
「……言われ慣れていないのか?」
「ないよ!!
前世でそんな言葉、言われたことなかったし!!」
「なら、もっと慣れればいい」
「どういう理屈!?」
リュカはエマの頬に触れ、指でやわらかく線を描く。
「かわいい。
誰より、俺にとってかわいい」
胸の奥が熱くなる。
指先が触れたところがじんわり熱くて、呼吸がうまくできない。
「……そんな顔されると、調子狂うよ」
「なら、もっと言う」
「今ので充分過ぎるよ!!」
でも――嬉しくてたまらなかった。




