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壊したいほど、大切にしたい
そのまま沈黙が落ちた。
リュカの指が、エマの指先に軽く触れる。
震えていた。
「……怖かった」
「え?」
「おまえがいなくなる想像をしただけで、胸がつぶれそうになった」
普段冷静な彼が、こんなにも揺れている。
「エマ」
名前を呼ばれるたび、胸が跳ねる。
「俺は、おまえを壊したいんじゃない。
おまえを壊さずに、全部手に入れたいんだ」
「……言い方……!」
「難しいことだ」
「いや難しいって自覚はあるんだね!?」
リュカは続けた。
「けれど、おまえが笑うなら……俺はそれでいい。
たとえ、世界中のすべてを敵に回しても」
「いや世界規模の話やめて!?」
エマが慌てても、リュカは微笑んだ。
「エマが生きている。それだけで……俺は救われている」
胸が締めつけられるように熱くなる。
(……私って、こんなにも誰かに必要とされてるんだ)
気づいたら、エマの手はそっとリュカの手を握り返していた。
「……私も。ここ、好きだよ」
「俺がいるからか」
「うん……」
リュカの瞳が、静かに、強く、エマを映す。
「なら……ずっとここにいろ」
その言葉は、束縛であり、愛であり――
エマの胸に、あたたかく沈んだ。




