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“もしもいなくなったら?”の答え
夜。
暖炉の前で、エマはぽつりと呟いた。
「もし、私がどこかへ行っちゃったら……どうする?」
軽い冗談。
だが、リュカの顔つきが一瞬で変わった。
「エマ」
低い声。
紫の瞳が暗く光る。
「……言わないでほしい」
「え?」
「それは……俺が一番、聞きたくない言葉だ」
エマは思わず息をのんだ。
こんな声で、こんな表情で言われるなんて。
「……ごめん。冗談だよ」
「冗談でも、嫌だ」
リュカはゆっくりとエマの肩に手を置き、膝をつくようにして視線を合わせた。
「おまえは、俺の生活の中心だ。息より、魔力より、塔より……」
胸に届くように言葉が落ちる。
「いなくなるなんて……考えられない」
「……そんなに?」
「そんなにだ」
エマは顔が熱くなる。
こんなふうに真剣に求められたことは、生まれて初めてだった。




