31/102
塔の結界に“追加機能”がつきました
朝。
塔の廊下を歩いていると、床一面に見覚えのない魔法陣が広がっていた。
「これ……また増えてる……」
リュカが淡々と言う。
「防御力を上げた」
「うん、そういうのはわかる。でも、この“侵入者に対する自動追放機能”は……?」
「必要だ」
「なんで即答なの!?」
リュカはエマの手首の腕輪に軽く触れながら続ける。
「おまえを探ろうとした賢者がいた。次からは結界が排除する」
「あの人のこと、まだ怒ってるの……?」
「当然だ。あれは不愉快だった」
紫の瞳がわずかに揺れる。
怒っているというより――心底、怖がっているようにも見えた。
「……エマが消える可能性を匂わせた」
小さな声で言う。
「二度と、あんな気配を感じたくない」
胸がきゅっと締めつけられ、エマはそっとリュカの袖をつまんだ。
「……大丈夫。私はここにいるよ」
「……なら、もっと強く縛らないと」
「発想がすぐ束縛に行くのやめよう!?」
だけど。
その“縛りたい”気持ちの奥にある不安を感じてしまったら、強く怒る気にはなれなかった。




