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「ずっとここにいて」その言葉の重さ
夜。
暖炉の前で、二人は静かに紅茶を飲んでいた。
揺れる火の色が、リュカの横顔を柔らかく染める。
「ねえ、リュカ」
「なんだ」
「私……幸せだよ」
その言葉に、リュカはゆっくり瞬きをした。
まるで信じられないものを見たように。
「……そうか」
「うん。リュカがいて、この塔があって……前の世界より、ずっと」
カップを置いたリュカが、そっとエマの手を取る。
「なら――」
真剣な声だった。
「ずっと、ここにいてくれ」
心臓が、大きく跳ねた。
「え……」
「どこにも行くな。俺のそばにいてくれ。離れないでくれ」
こんなふうに求められたこと、前世では一度もなかった。
胸が熱くなり、目頭がじんとしてくる。
「……離れないよ。行かない」
「本当か」
「うん」
リュカはエマを抱き寄せ、額をそっと重ねた。
「……エマ」
「なに」
「おまえは、俺の光だ」
その囁きは、炎よりあたたかかった。




