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「逃げるなよ」も愛の言葉ですか?
夜。
塔の外で、風が窓を叩く。
エマが眠ろうと布団にもぐった瞬間。
がちゃり、と鍵の音。
(嫌な予感)
案の定、リュカが普通に入ってくる。
「ちょ、なんでノックしないの!?」
「おまえの部屋だからだ」
「私の部屋だけど、私の許可制であってほしいんだけど!?」
返事はない。
代わりに、リュカは静かに布団に潜り込んでくる。
「……リュカ?」
「逃げるなよ」
その声には、熱があった。
怒りでも不機嫌でもなく。
ただ、どうしようもなくエマを求める色。
胸がぎゅっと締めつけられた。
「逃げないよ。逃げる理由ないし」
ぽつりと漏れた言葉に、
リュカの指がエマの手をそっと絡める。
「……なら、いい」
息を合わせるように、静かな夜が深まる。
――壊れるほど愛されたい。
その望みは、確実に形になりつつあった。




