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塔の書庫で密室ふたりきり
塔の大書庫は、天井が見えないほど高い。
古い魔術書がずらりと並び、紙とインクの香りが満ちていた。
「ここ、ずっと来たかったんですよね」
「危険な書もある。勝手に触るな」
「はいはい、先生――」
「リュカ」
「……はい、リュカ」
満足そうに目を細める彼の横顔に、また心がざわつく。
魔法陣の調査でしゃがみこんだエマの横で、リュカも膝をついた。
距離が、近い。
本棚の影で灯りが揺れ、二人だけの空間ができあがる。
「……っ」
エマが立ち上がろうとした瞬間、ふらついて本棚に手をつく。
リュカが即座に腕を回して支える。
「危なっ――」
「気をつけろ」
囁き声が耳に触れる距離。
濃密な空気に、心臓がうるさく鳴る。
「触れるなら……言ってくれれば、ちゃんと支える」
「今のは事故ですよ!?」
「事故でも、俺がいい」
「会話が成立してない!」
でも――
抱きしめる腕は、優しくて、強かった。




