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選ばれたのは、私
賢者が去ったあと。
塔の廊下は、不自然なほど静かだった。
「さっきの……」
言いかけたエマの言葉を、リュカが遮る。
「気にするな。おまえがどこから来たかなど、俺には関係ない」
「でも――」
「重要なのは、今ここにいること。俺の塔に、俺のそばに」
一歩、また一歩と距離を詰められ、壁に背中が触れる。
逃げ道は、最初からない。
「エマ」
名前を呼ぶ声が、信じられないほど甘く柔らかい。
その奥には、底なしの執着が潜んでいた。
「この世界に、何億の魂があろうと」
彼は、エマの手首の腕輪に指を添える。
淡い光が灯り、二人の魔力が微かに共鳴した。
「選ばれたのは、おまえだけだ」
胸の奥が、
ぎゅっと痛いほど熱くなる。
(ああ……)
壊れるくらい愛されたい、なんて。
ベッドで叫んだあの日の自分を思い出して、エマは心の中で頭を抱えた。
――叶い始めてるんだよ、これ。とんでもない形で。




