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前世バレの危機
ある日、塔に高名な賢者が訪れた。
「久しいな、リュカ」
「必要な用件だけを言え、老いぼれ」
挨拶からこれである。エマはこっそりと紅茶を置きながら、二人の会話を聞いていた。
賢者はふと、エマを見て目を細める。
「ほほう。その娘が、噂の弟子か」
「噂!?」
「おぬし、魂の匂いが少し変わっておるな」
ぞわり、と背筋が冷えた。
「もとは、別の世界から来たろう?」
カップがかすかに震える。
返事に詰まったエマより早く、リュカが立ち上がった。
「それ以上は不要だ」
空気が一瞬で張り詰める。
「彼女のことで、これ以上おまえに口を出させない」
「おおこわ」
賢者は肩を竦め、意味ありげな笑みを浮かべた。
「大事にしすぎて、壊すなよ」
「壊すなら、俺の中でだ」
「意味深な返しやめよう!?」




