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「好き」と言われてないのに
夜。
暖炉の前のソファで、エマはぼんやりと揺れる炎を見ていた。
(そういえば、この人に「好き」って言われたことないな)
やっていることは重すぎるほど愛情表現なのに、言葉としては聞いていない。
「リュカって、私のことどう思ってるんだろ」
ぽつりと呟いた瞬間。
「足りない」
背後から声が降ってきて、エマは飛び上がった。
「聞いてた!?」
「おまえが自分の価値をわかっていないことが、気に入らない」
ソファの背もたれ越しに身を乗り出し、リュカはエマを見下ろす。
「俺にとって、おまえは――」
一拍置いて、紫の瞳が細められた。
「世界より重い」
「言い方がヤンデレのそれ!」
「事実だ」
「……じゃあ、『好き』って言葉は?」
問うと、彼は少し考え、静かに微笑んだ。
「それでは、足りない」




