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塔のメイドさんは見ている
塔には少数の使用人がいる。
その中で、エマと一番話すのはメイド長のマリアだ。
「エマ様、最近ますます主様に溺愛されておられますねえ」
「いやいや、あれは溺愛というより監視というか」
「ヤン……なんとか、というやつですか?」
「ヤンデレ!? どこで覚えましたその単語」
マリアは微笑んで、内緒、と言わんばかりに口元に指を当てた。
「主様、エマ様のことになると本当にわかりやすいのですよ」
廊下の向こうを歩くリュカは、他の者には冷静そのもの。
しかしエマが書類を持ってこけかければ、瞬間移動かという速度で支えに入る。
誰かがエマに話しかければ、さりげなく間に入る。
マリアはくすりと笑った。
「長年仕えておりますが、あんな顔、初めて見ました」
「どんな顔?」
「……とても、人には見せたくない顔です」
その言い方が妙に気になって、エマの頬は熱くなった。




