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元お局、観察眼だけは鋭い
塔での生活にも、少しずつ慣れてきた。
書類仕事を任されれば、エマの元・お局スキルが火を噴く。
「この契約文、危険な条項紛れ込んでますよ」
「どこだ」
「ここ。ここも。あとここ」
次々と赤を入れるエマを、リュカは感心したように見る。
「さすがだ」
「ブラック企業で鍛えられましたから……」
ふと、紫の瞳が細められた。
「前の世界の話をするとき、おまえは少し曇る」
「え」
自分でも気づいていない仕草を、彼は当たり前のように拾い上げる。
「誰が、おまえをあそこまで擦り切らせた?」
声が冷えた。
「もう……いないよ、たぶん。トラックが全部持ってった」
冗談めかして笑うと、
リュカはエマの手を強く握った。
「なら、なおさら。二度と同じ目には合わせない」
静かな誓いが、空気を震わせる。




