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逃げてもいいけど逃げられない
腕輪をつけたその夜。
エマはベッドの上でじっと自分の手首を眺めていた。
見た目は華奢なブレスレット。
透き通る青い石がひとつ。
「可愛いのに、機能が重いんだよなあ……」
そっと外そうとしてみる。
がちゃり、と冷たい感触。
「ん?」
どれだけ指を滑らせても、留め具が外れない。
「え、ちょっと待って」
焦っていると、扉の向こうから穏やかな声がした。
「無駄だ」
「こわっ!?」
リュカが、湯気の立つカップを持って入ってくる。
「それは俺の魔力で固定してある。俺以外、外せない」
「最初に言おう?」
「逃げたいのか?」
静かに問われ、エマは言葉を失う。
「……逃げないよ。ただ、心の準備ってものが」
「なら、問題ない」
満足そうに微笑むその顔が、少しだけ誇らしげに見えた。




