表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/102

エピローグ ―甘さが溶けて、朝になる。

薄い光がカーテンの隙間から差し込み、

淡い金の色が部屋を静かに満たしていく。

鳥の声が遠くでさえずり、

魔法の灯りがゆっくりと消えていく時間。


エマは、柔らかな毛布に包まれたまま、

まどろみの中で微かに身を動かした。


そして――目を開ける。


「……ん……?」


ぼんやりとした視界の先に、

紫の瞳が真剣に、やさしく揺れていた。


距離は近い。

触れれば温度が伝わるほど近い。

目を覚ます前から、ずっと見守っていたとわかる距離。


「おはよう、エマ」


低く、あたたかい声だった。


「りゅ、リュカ……? ちょっと……近くない?」


「寝顔を見ていた」


即答。

エマは思わず毛布を口元まで引き寄せる。


「寝顔って……そんな長時間見るものじゃないよ……!?」


「必要だ」


「必要性どこ!?」


「おまえが安心して眠っている証拠だから」


言い切る声は静かで、

それでいて甘く溶けるようだった。


エマの頬がじんわりと熱を帯びる。


「……そんなこと言われたら、なんか恥ずかしいんだけど」


「恥ずかしがる必要はない。

 おまえは、俺が見守るのが一番似合う」


「似合う!?」


「当然だ。エマは大事な人だから」


枕元で、リュカの指がそっと髪に触れる。

優しく梳くように整えながら、

彼は息をひそめるように続けた。


「こうして目を開けて……最初に俺が見えるなら、

 それで十分に幸せだ」


言葉が甘くて、

まるで胸の奥に直接触れられたみたいで、

エマは思わず目をそらした。


「……そんな言い方……ずるいよ……」


「ずるくてもいい」


リュカは、エマの表情が見えるように

わずかに顔を近づける。


「エマ。

 おまえは俺の隣で笑っていればいい」


「……なんか、さらっと一番重いこと言ってない?」


「言っている」


「開き直った!?」


「重いくらいが、ちょうどいいだろう。

 おまえが望んだことだ」


エマの心臓がどくんと跳ねた。


そう――

「壊れるくらい愛されたい」と、

あの夜に願ったのは、他でもない自分だった。


そして今。

その願いが、

目の前の男によって現実になっている。


リュカはエマの手をそっと握り、

自分の胸の上へ導いた。


「ここが落ち着く。

 おまえが触れていると……安心する」


「……それ、私が言いたかったんだけどなあ……」


「なら、言えばいい。何度でも聞く」


囁く声があまりにも優しくて、甘くて――

胸がいっぱいになってしまう。


エマはゆっくりと、指を絡めた。


「……リュカ。

 一緒にいられて、嬉しいよ」


その瞬間、リュカの瞳が柔らかく揺れた。

朝日より、どんな魔法よりも温かい光を宿して。


「……エマ」


名前を呼ぶ声が、

まるで抱きしめるみたいに甘い。


「今日も、明日も……ずっと隣にいてくれ」

「もう……言わなくてもいるよ……」


エマは照れくさそうに笑って、

でも逃げずにその瞳を見つめ返した。


リュカは静かに微笑む。

この世界のどこよりも穏やかで、優しくて、深い笑みで。


「……ありがとう」


そっと唇を重ね、劣情を孕んだ瞳が触れていく…

「もっと俺に愛されてくれ」

「…ん…これ以上したら身体が壊れるよ!?」

「大丈夫だ、治癒ならできる」

「こわっっ」


朝の光が二人を照らし、

塔の部屋の空気を甘く満たし


火照る身体に涙ぐむエマを抱きながら

深くふかく俺は溶けていく……。


これからもずっと……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ