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“今度こそ離さない”の誓い
塔の屋上。
エマは風に髪を揺らしながら、少し寂しそうに笑った。
「私、こっちに来てから……
前の世界より“生きてる”って感じがするんだよね」
「……そうか」
「うん。
日本も楽しかったけど、でも……
誰かに必要とされる感じは、あんまりなかったの」
強がりではなく、
ただ素直な告白だった。
「でもね、リュカと一緒だと……
ここにいていいんだって思える」
胸の奥が熱で満たされていく。
エマは続けた。
「私ね……
“帰りたい場所”って聞かれたら、
もう迷わずここを選ぶよ」
その瞬間、
俺はこの三週目に来て初めて、
完全に世界と和解できた気がした。
「エマ」
「なに?」
彼女の手を取り、胸に当てる。
「おまえが選んでくれた以上……
俺は二度と、おまえを離さない」
エマは目を瞬き、
すぐに、照れくさそうに言った。
「……はいはい、重い重い。
でも……嫌いじゃないよ、そういうとこ」
笑う声が、星空に溶けていった。
三度目にしてようやく――
俺たちは同じ未来を選んだ。
エマの魂は変わらずに。
俺の想いは重く深く。
そして今度こそ、永遠に――。
エマの手を握り返す指先に、
確かな温もりが宿っていた。




