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「壊れるまで愛していい?」は挨拶じゃない
昼下がりの街は賑やかで、塔の中とは違う活気があった。
露店、香辛料の匂い、魔法具を売る店。エマはきょろきょろと辺りを見回しては、子どものように目を輝かせた。
「すごい……ゲームみたい……」
ぽつりと本音が漏れる。リュカが首を傾げたが、ごまかすように笑って誤魔化した。
魔材の店で、エマが棚を覗き込んでいるときだった。
背後から、ふいに腰に腕が回される。
「ひゃっ!?」
「人混みは危ない」
低い声が耳元に落ちてくる。
「離れれば離れるほど、連れ去られる確率が上がる」
「そんな物騒な街なんですかここ!?」
リュカは静かにエマの髪に鼻先を寄せ、息を吸った。
「……本当に、よくここまで来てくれた」
どこか意味深なその言葉に、胸がざわつく。
「エマ」
「は、はい」
「いつか、おまえ自身が望むなら」
紫の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
「壊れるまで愛していい?」
「そんなことサラッと聞かないで!?」




