第6話 王太子レオンハルト視点ーー失われていた“あの少女”
いつも読んでくださりありがとうございます!
このお話、ついに 王太子レオン視点の回 に入ります。
アリシアの変化を側から見たレオンが
これからどう動くのか――
物語の転換点になる大事なパートです。
「レオンの心情が知りたい!」
という読者様の声をいただけるような気持ちで書きました。
楽しんでいただけたら嬉しいです!
――昨日の講義のことが、まだ頭から離れない。
アリシア・ヴァレンティン。
婚約破棄を言い渡した“元婚約者”。
王妃には到底ふさわしくない、と確信していたはずの少女。
その彼女が――
王城の講義室で、堂々と指紋の理論を語っていた。
(あれが……本当に、アリシアなのか……?)
まるで別人だった。
いや、“別人”というより――
(本来の姿を取り戻した、というべきか……)
◇ ◇ ◇
アリシアとの初めての出会いは、幼い頃。
王城の庭園で転んで膝を擦りむき、悔しさを誤魔化そうとしていた俺に、そっと声をかけてきた少女。
『殿下……泣いておられますか?』
『泣いてなどいない』
『恥ずかしいのは、痛みに気づかぬふりをすることですわ』
その言葉に、胸を撃ち抜かれた。
まだ幼かったのに、彼女は気高く、どこまでも澄んでいた。
さらに驚いたことに――
彼女はドレスの裾を少し破り、それを丁寧に俺の膝に巻いてくれた。
『殿下が、少しでも痛みから解放されますように』
あのときの手は小さく震えていたが、
それでも必死に俺を支えようとしていた。
(……俺はあの時から……彼女に惹かれていたんだろうな)
次に会った時も、彼女は真剣だった。
『殿下の隣に立って恥じない人になりたいのです』
努力家で、真っ直ぐで、気高い少女。
それが俺の知るアリシアだった。
だが――いつからか、アリシアは変わってしまった。
気まぐれで侍女を泣かせ、
学友を見下し、
エレナ嬢に対しては露骨に敵意を向けるようになった。
“悪役令嬢”と呼ばれ始めた頃、俺は彼女から目を背けた。
(あの時の俺は……彼女に向き合うことから逃げていた)
◇ ◇ ◇
だが昨日。
指紋という未知の概念を、あれほど論理的に、堂々と説明する彼女の姿を見た瞬間――俺は震えた。
(……帰ってきたのか……?)
幼き日の、あの誇り高いアリシアが。
誰よりも真っ直ぐで、
誰よりも誠実で、
誰よりも努力家で、
そして――
(誰かの痛みを、決して見捨てない子だった)
講義を受ける騎士たちが感動で涙ぐみ、
魔導士たちが震え、
文官たちが誰一人疑わないほどの説得力。
水晶に残っていた“幼年期の俺の指紋”と、
現在の俺の指紋が十二ヵ所以上一致したとき――
「殿下の御印は、生まれた時から変わっておりません」
その言葉に、息が詰まった。
彼女は王家に嘘が通じないことを承知の上で、真正面から挑んできた。
(ああ……あれが、アリシアだ)
講義が終わった後、部屋を去る彼女の背を見ながら、
胸が痛くなるほど強く脈打っていた。
◇ ◇ ◇
「殿下……本日の予定についてですが」
侍従の声で、意識が現在へ引き戻される。
机の上には、今朝届けられた文書が積まれていた。
――ヴァレンティン公爵、反逆容疑で拘束。
アリシアの父。
王国屈指の名門で、政治にも軍にも好影響をもたらしてきた名士。
(公爵殿が反逆……? ありえん)
俺は彼と何度も議論を交わしたが、
彼ほど王国を愛する人物はいない。
だが示された“証拠”は妙に整いすぎていた。
(……まるで、誰かが意図的に並べたような……)
しかも、提出者の名が曖昧だ。
さらに不自然なのは――
「勇者殿下(第2王子殿下)が、急ぎ帰還されるとか」
(……ヴィクトルが……?)
第2王子、ヴィクトル。
母は前王妃で、現王妃とは別腹。
彼は“魔王討伐の勇者”として国全体で称えられている。
その最大の功績が、
(“王家の血筋として再び王妃の座に母を戻すべきだ”という動きに直結している)
これは政治的に非常に危険だ。
公爵逮捕、勇者帰還、王妃の座に絡む派閥の動き。
全てが――繋がって見える。
(アリシアの父公爵は、現王妃派の中心……
つまり、ヴィクトルの母の復権を望む派閥からしたら、邪魔な存在なのでは?)
そう思った瞬間、背筋が冷えた。
(まさか……複数の動きが、すべて一本の線で繋がっている……?)
だが推測にすぎない。
だからこそ――
(アリシアが必要だ)
昨日の講義は、単なる知識ではなかった。
“嘘を暴く力”。
“冤罪を正す力”。
“真実へ至る術”。
そんなものを、アリシアは持っていた。
……誰よりも。
そして、彼女は言った。
『父の冤罪を晴らしたいのです』
その瞳は、幼い頃のあの真っ直ぐさを取り戻していた。
(俺は――また、彼女を信じるべきなのか)
◇ ◇ ◇
「殿下、アリシア様がお見えです」
侍従長の声に、胸が強く跳ねた。
(……来たか)
扉の向こうに立つアリシアは、
婚約破棄の夜の彼女ではなかった。
幼い頃の記憶と、昨日の講義の“科学捜査官アリシア”が
一つになったような――強い眼差しをしていた。
「殿下。……お時間をいただき、ありがとうございます」
深く礼をする彼女。
その姿になぜか胸が痛む。
「頭を上げてくれ、アリシア」
俺はゆっくり言った。
「話を聞こう。……すべてだ」
かつて逃げた俺ではない。
もう彼女から目を背けない。
父公爵の冤罪の背後にうごめくもの。
勇者ヴィクトルとその母の影。
そしてアリシアの変貌の真実。
(この国を救うには、……彼女が必要だ)
だからこそ、はっきり言った。
「アリシア。
――おまえの“力”を貸してくれ」
その言葉に、アリシアの青い瞳が揺れた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
レオン視点を書くの……めちゃくちゃ楽しかったです。
「アリシア、こんなに変わったのか……!?」
という、戸惑いと驚きと惹かれ始めの混ざった空気を
少しでも感じていただけたら嬉しいです。
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次話はいよいよ物語が大きく動く回になりますので、
ぜひ続きも読んでくださいね!




