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悪役令嬢ですが、前世は警察官でした。〜婚約破棄されたので科学捜査で冤罪を減らします〜  作者: オベリスク


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第4話 王太子とアリシアーーすれ違いの真実

今日2本目投稿します。

王城の応接室。 

 壁一面に並ぶ書棚と、磨き上げられたテーブル。

 すべてが規律正しく整えられたこの部屋は、もともと緊張感が満ちている。


 だが今は、それ以上の空気が張りつめていた。


「……では、アリシア。

 きみは本当に、“捜査”をしたいと言うのか?」


 レオンハルト殿下の問いに、わたしは深くうなずく。


「はい。殿下。

 ――わたくしは、この国の冤罪を減らすために力を尽くしたいのです」


 殿下は静かに目を細めた。

 怒っているのとも、呆れているのとも違う。

 確かめるような、測るような眼差し。


「だがアリシア。きみは……」


 そこで殿下はわずかに言い淀んだ。


「かつて、侍女を泣かせ、学友を苛め、王妃の器ではないと判断した。その“きみ”が、なぜ急に――」


「殿下」


 わたしはそっと言葉を挟む。


「そのご指摘は、真実でございます。

 ……わたくしは、過去において多くの過ちを犯しました」


 殿下の表情が揺れる。


「そのことについては、謝罪いたします。

 ――当時のわたくしは愚かで、周囲を見る余裕もなく、自分を守ることしか考えられませんでした」


「……言い訳はしないのだな」


「はい。殿下のお言葉の通りです」


 殿下はほんの一瞬、息をのんだように見えた。


 そして――


「だが今のきみは、あの頃とはまるで違う。……なぜだ?」


 この問いは避けられないものだった。


(前世の記憶を持って転生した、なんて、言えるわけがない)


 わたしは短く息を吸う。


「殿下。

 わたくしは……“人の過ちと、その痕跡”を見つめる仕事をしておりました。

 長い年月をかけて、多くの事件と向き合う職務に」


 それは嘘ではない。

 前世の“警察官”という言葉を言わなかっただけだ。


「そこで、わたくしは痛感したのです。

 ――真実を見誤ることの恐ろしさを。

 ――冤罪が生まれる過程を。

 ――人の人生が一つの誤解で崩れる現実を」


 殿下のまなざしが、わたしの言葉を逃すまいと真剣に向けられている。


「アリシア。きみは……今までそのようなことを一度も口にしなかった」


「申し訳ありません。

 ……殿下に打ち明ける勇気が、当時のわたくしにはありませんでした」


 殿下の瞳が大きく揺れた。


 そして苦しそうに呟く。


「過去のことは……いまは問題ではない。

 ただ――」


「はい、殿下」


「アリシア。

 きみにも……あの頃、言いたくても言えなかったことがあったのだな」


 殿下の声が、ゆっくりと、わたしの胸に染みていく。


「殿下。

 わたくしは……あの頃の自分を恥じております。

 殿下の隣に立つ資格がないと、あの時のわたしは自覚しておりました」


「……アリシア……」


 僅かな沈黙。


 その空気を破るように、わたしは頭を下げた。


「お願いがございます」


「願い……?」


「はい。

 わたくしに――“冤罪を減らすための講義”を開かせてください。

 指紋、足跡、筆跡……真実を示す方法を、この国の騎士や文官に広めたいのです」


「講義を……王城で?」


「はい。

 殿下のお力添えがあれば、実現可能かと存じます」


 殿下はしばらく沈黙した。


 机の上の文書に視線を落とし、それから再びわたしへ向き直る。


「……きみが、ここまで真剣に何かを語ったのを初めて見た」


「殿下……?」


「いや、違うな。

 本当は、“昔のきみ”はそのような少女だったのかもしれない」


 胸がぎゅっと痛む。


(殿下……あなたは……ちゃんと覚えていてくださったんだ)


 幼かった頃、わたしの中の“前世”がまだ目覚めていなかったころ。

 わたしは確かに、誠実で、まっすぐで、殿下の隣に立とうと努力していた。


 その姿を、殿下は忘れていなかったのだ。


「アリシア。

 きみの願い、聞き届けよう」


「……! 殿下……!」


「講義の開催を許可する。

 内容も教室も、必要なものも好きに揃えろ。

 ――王太子として、この国を真実に導く責務がある」


 その言葉は、まるで宣誓のようだった。


「ありがとうございます、殿下……!」


 深く、深く頭を下げる。


「ただし」


 殿下はやや厳しいまなざしで言う。


「きみの“力”が、本物であることを証明してもらう。

 講義は一度きりではなく、何度も続けてもらう」


「もちろんですわ」


「そして――」


 殿下の声が少しだけ柔らかくなる。


「きみの知識を、この国のために使ってほしい。

 きみの父上の疑いを晴らすことにも……この技術は必要だろう」


 その言葉で、わたしの胸は決意で熱く満たされた。


(殿下……信じてくださるのですね)


「はい、殿下。

 この命に代えても――真実を守ります」


 殿下の表情が、ほんの一瞬だけ柔らいだ。


「きみは変わったな、アリシア」


「いえ、殿下。

 ようやく……“戻った”のです」


 その言葉に、殿下は静かにうなずいた。


(殿下……今度こそ、必ず)


 父の冤罪を晴らす。


 そして――

 真実の光が、この国に届く日まで。

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