第2話 悪役令嬢の罪状と、前世の職業病
連投します。今後は毎日更新します。
ヴァレンティン邸に戻ると、侍女のリリアが泣きそうな顔で迎えた。
「お嬢様っ……! 本当に婚約破棄を……?」
「うん。まあ、仕方ないよね」
あっさり言ってみせたけれど、リリアは余計に顔を青くした。
「“仕方ない”ような話ではございません! 殿下のご判断は、あまりにも……!」
「いやいや、逆だよ。あれは“当然”の判断だと思う」
「と、当然……?」
わたしはため息をつき、部屋のソファに腰を下ろした。
どう説明したらいいだろう。
前世の記憶を持ったまま、悪役令嬢の身体に入った――なんて、普通に言えば頭がおかしい人扱いされるだけだ。
だから今は、事実だけを淡々と確認するしかない。
「リリア。正直に言って。わたしって、どれぐらい嫌われてる?」
「……っ……!」
侍女は本気で言いにくそうな顔をした。
でも、これは避けて通れない。
「いいよ、遠慮なく言って。どうせ――今のわたしがしでかしたことじゃないんだから」
そう言うと、リリアはようやく口を開いた。
「アリシア様は……その……ご学友を泣かせるような振る舞いが多く……。
気に入らない者には、言葉がきつく……。
特に、殿下の近くにいたエレナ様には……」
「……いじめてた?」
「……はい」
やっぱりか。
わたしの胸に、警察官だった頃の感覚がよみがえってくる。
被害届を出した側にも、出された側にも、必ず理由がある。
まずは事実を知ること。
それはどの世界でも同じだ。
「エレナ様からの訴えが、王宮にも届いております。
殿下が動かざるを得なかったのも……理解できます」
「つまり、悪役令嬢として完璧に嫌われていたわけだね」
「アリシア様ぁ……!」
リリアは泣きそうだ。
わたしは逆に、すごく冷静になっていた。
(殿下の判断は正しい。
なら、この世界の“普通の手段”では、わたしはどうやったって破滅ルートだったんだ)
でも、わたしには前世の知識がある。
証拠を集め、事実を見極め、冤罪を晴らす方法を知っている。
それは、ここでは誰も知らない“技術”だ。
「リリア、ひとつ聞きたいんだけど」
「はい……?」
「父の噂。最近やたらと“証拠”が見つかってるって、本当?」
「そ、それをどこで……!? お嬢様には、まだ……!」
リリアの反応で確信する。
(やっぱり怪しい。
証拠が“急に増える”のは、誰かが仕込んでるときの典型パターン……)
前世で、何度も見てきた。
誰かを落としたいとき、偽の書類や捏造痕跡を量産するやり口を。
「……リリア。もし今、父が疑われているなら」
「アリシア様……?」
「わたしが、調べるよ」
「――!」
リリアの目が見開かれた。
「殿下に会って、“全部話す”って言ったのは、そういうこと。
わたしはただの令嬢じゃない。
――元警察官なんだよ」
「け、警察……? それは……?」
「この世界でいう“捜査官”みたいなもの。
悪人を捕まえるのも、冤罪を防ぐのも、全部仕事」
リリアはぽかんと口を開けた。
そりゃそうだ。
この世界には“警察”なんて概念がない。
犯罪は騎士団の勘と経験と噂で処理される。
だから冤罪が起きて当たり前なんだ。
(この世界の捜査は、あまりにも甘い。
だからこそ、わたしがやる価値がある)
「まずは父の執務室の確認からだね。
明日、早速見に行こう」
「お、お嬢様、自ら……!? 危険では……!」
「危険なのはむしろ、“放置すること”だよ」
これはもう、悪役令嬢とか関係ない。
誰かが罪を着せられているなら、助ける。
それが“わたし”の在り方だ。
「これからは、アリシア様はどうなさるおつもりで……?」
「決まってるよ」
わたしはにっこり笑った。
「二度目の人生は、“真実の味方”として生きるんだ」
その夜。
日記を開き、今日の出来事を事細かに書き留める自分がいた。
証拠の記録。
状況の整理。
事実の確認。
――気づけば全て、前世の職業病だった。
(明日から、忙しくなるね)
窓の外では、王都の鐘が静かに鳴っていた。




