表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、前世は警察官でした。〜婚約破棄されたので科学捜査で冤罪を減らします〜  作者: オベリスク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第10話 逃走者を追え――足跡が語る嘘と真実

 王城の鐘が、重く低く鳴り響いた。


 ――“行方不明者発生”。

 ――“緊急捜査開始”。


 城内に響く緊。張した声。

 文官たちが駆け、騎士たちが武具を手にする。


「殿下! 南門方面に、ニコルらしき姿を見たという報告が!」


「北門近くでも目撃がありました!」


「西の地下通路から出た可能性も……!」


 情報が錯綜している。


(……わざと混乱させてる?)


 わたしの胸に、嫌な予感が走った。


「アリシア、来い!」


 レオンハルト殿下がわたしの手を引き、走りながら叫ぶ。


「ニコルは、必ず“地上に痕跡を残している”。

 “足跡”の技術……講義はまだだが実戦で使う時が来た!」


「はい、殿下!」


◇ ◇ ◇


◆王城・中庭出口


 風が吹き抜ける石畳の中庭。

 騎士たちが慌ただしく行き交う。


 ヴォルフ副団長がやってきて報告する。


「殿下! ニコルは今朝、ここを通過した可能性が高いとのこと!」


「目撃者は?」


「庭師が“それらしい後ろ姿”を見たと……。ただ、確証は――」


「……情報が曖昧すぎますね」


 わたしは石畳の地面をしゃがんで見つめた。


 この中庭は、王城の中でも特に土埃が舞いやすい場所。

 石畳の隙間に細かい土が入り込み、靴跡が残りやすい。


(……ある)


 小さく、ほんの数ミリだけ沈んだ“線”が見える。


「殿下、こちらです!」


 魔導紙と妖灰粉を取り出し、跡をなぞるように薄く粉を振りかける。


 ふわりと灰が舞い……

 石畳の上に“靴底模様”がくっきりと浮かび上がった。


「これが……足跡……!」


「御印(指紋)と違って消えやすいですが……

 一度現れれば、“靴の個性”がしっかり映ります」


 殿下がしゃがみ込み、食い入るように見つめた。


「線の幅、溝の深さ……

 これは、同じ靴であっても個体差が出るのだな」


「はい。使い込むことで摩耗し、

 “世界にひとつだけの靴跡”になります」


 ヴォルフ副団長が息をのむ。


「ここまで鮮明に……!」


「殿下、この靴跡……“急いで走った跡”です」


 石畳の溝の深さが一定ではない。


 つま先部分の沈みが、異常に強い。


「重心が前に偏っています。

 逃げる時に踏み込んだ跡です」


「逃走方向は……“南”。」


 殿下が立ち上がった。


「南門に向かった可能性が高い!」


「追うぞ!!」


◇ ◇ ◇


◆王都・南門付近


 南門は市場に近く、朝でも人が多い。


 抽出した靴跡を魔導紙に写し取り、

 人混みに残る可能性のある土埃を探していく。


「アリシア、これは……!」


 殿下が指さしたのは、露店の裏路地。

 ほとんど人が踏み入らない、薄暗い隙間だ。


 そこに――


「……ありました。ニコルの足跡です」


 わたしたちは粉を使い、浮かび上がった模様を魔導板へ転写した。


 王城で採取したものと完全に一致する。


「ニコルは……この路地に入った。

 だが、この先は“行き止まり”だ」


 ヴォルフが険しい声で言う。


「では、どうやって消えた……?」


「いいえ、殿下。消えていません」


 わたしは路地の奥を見つめながら言った。


「“上”です」


 二人が同時に息を呑む。


「建物の壁に……“足をかけた跡”があります」


 灰を振ると、壁の凹みに細い線が浮かんだ。


 靴底の一部。

 つまり――


「ニコルは……建物に登りました」


「逃走経路を“空中”に移した……!」


 殿下が舌打ちした。


「ヴォルフ! この建物の上へ回り込め!

 アリシア、行けるか?」


「もちろんです、殿下!」


◇ ◇ ◇


◆屋根の上


 細い屋根通路を走る。

 わたしの手には魔導紙と妖灰の入った小瓶。


 途中で、殿下が立ち止まった。


「アリシア……こいつは……」


 瓦の上に、奇妙な“形の乱れた足跡”が残っていた。


 くっきりと沈んだ跡。

 そして――


「この沈み込み……“荷物を背負っている”時の重さです」


「荷物……?」


「はい。背中に、重い何かを担いでいる時、

 体はこういう踏み込み方をします」


 殿下の表情が強張る。


「まさか……ニコルは“単に逃げたのではなく”……」


「“何かを持ち出している”。

 その可能性が高いです」


 嫌な予感が、背骨を走った。


(帳簿の偽造だけじゃない。

 もっと……もっと重大な何かが動いている……)


 殿下が低く呟く。


「ニコルは……“重要機密を盗んで逃げている”可能性がある」


「殿下……!?」


「公爵家の帳簿の件を隠すための“陽動”。

 本当の目的は別にあるのかもしれない」


 わたしは拳を握る。


(影は……この国の根幹を揺るがす“何か”を狙っている)


 その瞬間、遠くで騒ぎの声が上がった。


「人だ!! 屋根の上に……!!」


 南市場の広場で人々が騒ぎ、

 数名の騎士が指差す方向を見ると――


 青いローブをなびかせ、屋根の上を走る影。


「……ニコル!!」


 殿下が叫び、剣の柄を握る。


「追うぞ!!!」


(逃がさない……!

 必ず捕まえる!!)


 こうして王都全体を巻き込んだ

“初の本格捜査追跡戦” が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ