6. 母からの提案
――やがて母が落ち着くと、俺のところへ歩み寄ってきた。
その顔には怒りよりも、心配の色が濃く浮かんでいる。
「カナデちゃん、大丈夫? 怖かったでしょう……」
母はしゃがみ込み、俺の頭をそっと撫でた。
その手の温もりに、さっきまで暴れていた心臓が少しずつ落ち着いていく。
「でもね……このままじゃ危ないわ」
母は小さくため息をつき、優しい声で続けた。
「襲われたとき、魔力のないあなたじゃ自分を守れないでしょう?」
「……」
俺は何も言い返せなかった。
さっきまでの戦いが頭に蘇り、ただ唇をかみしめる。
「だから、師匠をつけることにするわ。ちゃんとした魔術の先生よ。
少しずつでも、自分を守れる力を身につけてほしいの」
「師匠……?」
母は微笑み、俺の頬に手を添える。
「大丈夫。魔力が遅れて発現する子は珍しくないのよ。
そこで、ベテラン魔術師のレイに来てもらったの」
母の視線の先には、余裕の笑みを浮かべるレイがいた。
「……まさか、レイさんが師匠……?」
「そう。優秀で、しかも頼れる先生よ。
カナデならきっと、すぐに強くなれるわ」
母の優しい声に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
(この小娘は確かに強い。こやつから現代の魔術とやらを学ぶのが一番良いかの)
(……俺としても心強いな)
レイは俺のそばまで歩み寄り、腰に手を当てた。
「カナデよ、そなたは可能性の原石だ。魔神がバックについておるのだ。魔力無しでも、いずれ必ず化ける。どうだ、私から魔術を学んでみないか?」
あの戦いを目の当たりにした後だ。願ってもない話だった。
「俺……魔力が無いらしいんですが、それでも良いんですか?」
レイはフッと笑みを浮かべ、手を差し出す。
「無論、問題ない。そういった特異体質の者は過去に一人だけいたが、そやつは今やこの都市最高峰の魔術師となっておる」
自分も魔術が使えるかもしれない――
そう思うだけで、胸の奥が熱くなる。
「……ぜひお願いします!」
断る理由などあるはずもない。
俺はレイの手をしっかり握った。
――こうして俺は、魔術師レイの弟子となったのだった。