4. 魔神の魔力
元をたどれば、魔力が使えない原因はサティスだ。
ならば、彼女から魔力を分けてもらうのが普通――そう思った俺は、二つ返事で頼んだ。
(妾の魔力の、ほんのひとかけらをそなたの魔力回路に流し込むぞ)
「……わかった、やってくれ」
次の瞬間、全身にゾワリと走る感覚。
熱くも冷たくもない、でも体の奥底が満たされていくような……不思議な感覚に襲われた。
同時に、魔力が体の外にまで溢れ出ていく錯覚に陥る。
「なぁ、これ……大丈夫なのか……?」
(んー……妾の魔力が、そなたの中で少し暴れておるな)
「はぁ!? もっと早く言えよ!!」
冷や汗が背中を伝う。どうにか抑えようと必死だが、やり方なんてわかるはずもない。
「やばい……このままじゃ……意識が……!」
(とりあえず魔術を使ってマナを消費するのじゃ!)
サティスの指示に従い、俺は必死に初級魔術の名を叫んだ。
「ディストォォッ!」
手のひらに現れたのは、小さな火球――のはずだった。
だが、その火球は闇を帯びた光輪のような、不気味で美しい魔力の塊になっていた。
「な、なんだこれ……!?」
だが魔力の暴走は止まらない。むしろどんどん強くなる。
「やばいやばいやばい! 治まんねぇぞこれ!」
(仕方ないの……妾に意識を委ねろ)
「そ、そんなのどうやんだよ!? 無理に決まって――うわああっ!」
その時だった。
足元に突然、光り輝く魔法陣が展開される。
魔法陣は俺の魔力を吸い取るように輝き、暴走していたエネルギーが一気に抜けていった。
ふらりと膝をついた俺の目の前に――金髪の美少女が舞い降りた。
「ふぅ……シルヴィアの言った通り、大物だな」
息を荒げる俺を見下ろしながら、彼女は鋭い眼差しを向ける。
「カナデ、今の魔力……八歳の魔力回路が耐えられる量じゃない。あんなことを続けたら廃人になるぞ」
「な、なんで俺の名前を……」
「私はレイ。この都市の魔術師だ。……で、君は何を隠している?」
いきなり核心を突いてくる美少女。
やばい、こいつ勘が良すぎる。
「……な、何も」
「そうか」
次の瞬間――鋭い光の刃が、俺めがけて一直線に飛んできた。
「っ……!」
だが、光刃は俺に触れる前に、砕けるように消え去る。
「……お主、妾の契約者を本気で殺そうとしたの」
聞き慣れた艶やかな声。
そこには、赤と黒のドレスをまとった美しい女――煉獄の魔神サティスが立っていた。
レイは一瞬たじろぎながらも、表情を崩さない。
「……やっぱり。古書で見たことがある顔だ。煉獄の魔神――厄災を呼び、都市を滅ぼしたと言い伝えられる存在」
「ほぅ、妾と同じ姿が記録されておったか。……まあ、過去の話などどうでもよい」
サティスはレイを鋭く睨む。
「妾の契約者に手を出したな? 例え力を確かめるためだとしても……その罪、万死に値する」
次の瞬間、サティスの魔力が空気を震わせた。
視界が揺れるほどの重圧に、俺でさえ背筋が凍る。
(やべぇ……これ、本物の化け物だ……!)