17. 魔界都市の闇討ち
ハクアが竜化し、俺は険しい表情のままその背に乗っていた。
(もうそろそろ着きます)
竜の速度は馬車など比べ物にならない。馬車で一日かかる距離を、ものの三十分で駆け抜ける。
視界に映るのは、炎に包まれた故郷――レミオン。
大きな火柱がいくつも上がり、街は崩壊寸前だった。
中央では魔術が飛び交い、街の中をオークや黒い狼、見たこともない魔物が徘徊している。
(……ひどい有様じゃの)
「入り口で下ろせ、ハクア」
(了解です、旦那様)
街の入り口に降り立つと、ハクアは竜人化を解き、再びメイド姿に。サティスも実体を現す。
「旦那様!」
「奏!」
名前を呼ばれた瞬間、俺は走り出していた。
――向かうのは、自分の家。両親の無事を確かめるためだ。
道中、街の人々が無惨な姿で倒れていた。魔物に喰い散らかされ、原形すら留めていない者もいる。幸い、この周辺には魔物の姿はなかったが、喉の奥から嗚咽がこみ上げる。
前世でも、こんな地獄絵図は見たことがなかった。
吐き気をこらえ、一歩一歩、家へ向かう。
――だが、俺の家は大破していた。
目の前には三匹の巨大な狼型魔物。
そして奥では、父・テイラーを抱きかかえ、必死に名前を呼ぶ母・シルヴィアの姿があった。
「……父さん! 母さん!」
駆け寄ろうとするも、狼たちが立ちはだかる。
「俺の前から失せろ! ――ディストォッ!!」
炎の球を連続で放ち、三匹まとめて焼き払う。
魔物を倒すと、すぐに母へ駆け寄った。
「母さん! 父さんに何があったんだ!?」
涙を浮かべながら、シルヴィアは答える。
「……魔都市の人間の攻撃から、私を守ってくれたの」
胸の奥で怒りが爆ぜる。
その瞬間――闇の槍が俺の目の前に突き刺さった。
いや、それは……母の心臓を貫いていた。
「……は? ……ぁ、あ……」
シルヴィアの口から血が零れる。
視線を上げると、仮面を被り、赤のタキシードに黒のスーツを纏った高身長の男が降り立っていた。
「あ〜ら、一番大事なお姫様が残ってたとはねぇ。危うく殺し忘れるところだったよ」
頭が真っ白になり、俺はためらいもなくディストを放った。
だが、透明な魔力障壁に阻まれる。
「挨拶もなしに攻撃とは……ずいぶん偉いご身分だねぇ」
「お前は……死ねぇ!!」
握り拳を固め、突撃する。
しかし、男は空間ごと押し返すようにして、俺を吹き飛ばした。
瓦礫に叩きつけられ、全身に激痛が走る。
骨が何本も砕けたのがわかった。
「口も悪いし弱いし……本当に元勇者と元お姫様の子かなぁ〜?」
反撃しようにも体は動かない。
「……っと、こんな所で油を売ってる場合じゃないや。あの女の始末に加勢しないとねぇ」
そう言い残し、男は姿を消した。
――そのとき。
血を流しながら、シルヴィアがよろめきながら立ち上がり、俺のもとへ歩み寄ってきた。
そして、俺を抱きしめる。
「……カナデちゃん……あなたは、絶対助けるから」
緑色の魔法陣が展開される。
「……王女の血よ、この子をお救いください……《フルリカバリー》」
瞬く間に傷が塞がっていく。
さっきまでの激痛が嘘のように消え、傷一つない状態に戻った。
「母さん!!」
倒れ込む母を抱きかかえる。
「……カナデちゃん……治って、よかったわ」
「母さん……!」
震える声で名を呼ぶ俺に、母は微笑む。
「たった一年で、ここまで成長して……お母さん、嬉しいわ。あなたは、絶対強くなる。元王女の私が、保証する」
かすかな力で、俺の頭を撫でる。
「……大人になるまで、一緒にいたかった……な……。レイちゃんの言うこと、ちゃんと聞くのよ。……私たちの子に……生まれてきてくれて……ありがとうね……」
「母さん!! 母さん!!」
何度も、何度も名を呼ぶ。
だがシルヴィアは――安らかな表情のまま、静かに息を引き取っていた。




