16. 破滅の音
いつも通り鍛錬に励む俺は、聖竜・ハクアのおかげか、大気中のマナの集まり方がこれまでとは段違いに良いことを感じていた。
「ディスト!」
風属性の球体が前方へ放たれ、衝突の衝撃で一本の木が倒れる。
俺は額の汗をタオルで拭い、水分補給をする。
「そろそろ、他の魔術も覚えてみたいな」
(そうじゃな。魔術は無限にある。そろそろレイに次の魔術を教えてもらっても良いかもしれん)
(そうだよな、もっと派手なやつとか使ってみたいぜ……)
家の扉を開け、メイド姿のハクアがこちらに歩いてくる。
「旦那様、夜のお食事ができました。一度帰宅しましょう」
「わかった」
ハクアはいつも通りメイド姿で家事や食事をすべて担っており、レイもそれには大助かりらしい。
家の中に入ると疲労感が押し寄せ、椅子に腰を下ろす。
目の前には、俺の世界にあったシチューやパンなどが並べられていた。どうやらハクアが俺の記憶からレシピを学んだらしい。
「あれ、そういえばレイさんはまだ帰ってきてないのか?」
「はい、昼に隣街へ用事があると言って転移して行ったきりですね」
転移魔術は本来、魔道具がなければ使えない秘術らしいが、レイさんはその身一つで使えてしまうというチートぶりだ。
「まあ、そのうち帰ってくるだろう」
(……どうかの)
サティスはいつもより真剣な口調で答えてきた。
「魔神、貴方も感じましたか?」
俺は二人の会話についていけず、何の話をしているのか分からなかった。
(妾を馬鹿にするでない。これだけの魔力に気づかぬはずがなかろう)
「……何かあったのか?」
真剣な眼差しでハクアを見る。
「旦那様、恐らくですが現在、隣の街に魔界都市のハイクラス魔術師がいらっしゃいます」
(しかも、一人ではない。四人ほどは居るであろう)
奏は首を傾げた。魔界都市の人間は、この魔術都市に入ることは基本的に許可されていない。それが何故、俺の故郷に?
「それっておかしくないか? 話し合いは魔界都市と魔術都市の中央にあるシェリオン大聖堂でしか行われないはずだろう?」
(まあ、書物を見る限りではそうらしいのう)
「恐らくだが、許可など取ってはいないだろう。膨大な魔力が急に出現したように感じた。恐らく転移魔術によるものだ」
俺の顔はみるみる青ざめていく。
「……それって」
(場外乱闘……闇討ちじゃな)
バンッ!!と机を叩き、立ち上がる俺。
一刻も早くレミオンに向かわなければ――。
その時、精神感応魔術から聞き慣れた声が響いた。しかしノイズが激しい。
(――カーナデか?)
(レイさん! 聞こえます! どうしましたか?)
サティスは仕方なさそうに精神感応魔術を強化し、ノイズを払った。
(カナデ、聞こえるか!?)
(レイさん、一体何が……!?)
俺は今まで感じたことのない焦りが言葉の端々から伝わってくるのを感じた。
(……現在、レミオン中枢で魔都市の連中と交戦中。魔神と竜を連れて来い。私一人では四人と魔物を全部対処できん……チッ!!)
青ざめていた顔はさらに蒼ざめた。
(街の状況は!? レイさん!? レイさん!!)
精神感応魔術はそこで途絶えた。
(レイほどの魔術師ならば死ぬことはあるまいが、まずいな)
「私が竜化して飛びましょう。強力な結界を感じます。恐らく転移魔術はジャミングされていて、正確に転移できません。」
「あぁ..…頼む!」
拳に力を込める奏は、ただただ街の無事を祈ることしかできなかった。




