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14. 千本ノック

つい先程、二つの魂を宿した俺の身体に、妙なざわめきが走った。

それが何なのかは分からない。だが胸の奥がじんわり熱い。思わず、自分の心臓に手を当てる。


「――おーい、カナデ!」


 呼ばれて空を見上げると、きらめく金髪が陽光を反射していた。

 魔法陣の上に立つレイさんが、優雅に――しかし確実に――こちらへと降下してくる。


「レイさん! 無事でしたか」


 地面に降り立つや否や、彼女はすっと指を伸ばし、俺の額を軽く弾いた。ぴしっ。


「馬鹿。私はあの程度の連中に手こずるわけないだろう。それより――お前は無事だったのか? ……さっきから、とてつもない魔力を感じたが……ん?」


 赤みを帯びた瞳が細くなり、じろりと俺を頭から足先まで舐めるように見つめる。


「ど、どうしました?」


 両手を上げて降参ポーズ。だがレイさんの表情は徐々に“確信”へと変わっていった。


「……カナデ。お前、魔神の力を使ったな」


「い、いやいや、そんなわけ……」


「じゃあ何故、私の魔術が解けている?」


(小娘、貴様が変なことをしたからこうなったのじゃ)


(変なこと? そもそもここは私の住む森ですよ? あなたみたいな禍々しい魔力を感じたら、一目散に排除するのが普通でしょう?)


(妾はそんなに魔力を現出させておらん! ほんのちょっと感じただけで襲ってくるとは……気の荒い竜じゃな)


(そもそも、魔神が何故こんなところに居るのですか? あなた、死んでるはずですよね?)


 俺が冷や汗をだらだら流している間も、頭の中では二人の魂が言い争っていた。

 ……いや、まずは俺を助けてくれませんかね?


(おい。私も一応、お前らの会話に参加できることを知っているよな?)


 ――ぴたり、と沈黙。


((あ……))


 そう、俺とレイさんは普段から精神感応魔術で繋がっている。

 だからサティスの声も会話も、全部筒抜けだ。

 その事実を忘れていたサティスと、初めて知って固まるハクア。


「……大体状況は分かったが、まさか竜まで引き込むとは……意味が分からん。どうやったらそうなる?」


「俺にも、わかりません……」


 あはは……と乾いた笑いしか出てこない俺。

 ――そして、このあと待ち受けているどキツイ訓練になる事を、まだ知らなかった。



そして十分後。


 レイの魔術によって、魔神との魔力回路は一時的に断たれていた。


「はい、カナデ。そこで構え」


「え? え? もう訓練ですか?」


「“もう”じゃない、“今すぐ”だ。お前の中に竜が加わったなら、マナの流れは変わっているはず。実戦で慣れるのが一番だ」


 にやり、と口角を上げるレイさん。……嫌な予感しかしない。


「内容は簡単。ディストを――そうだな、千本だ」


「千……!? それノックじゃなくて拷問じゃないですか!」


「拷問じゃない、鍛錬だ。口より手を動かせ」


 俺の抗議など一切聞き流し、レイさんは指を鳴らす。

 途端に足元から風が巻き上がり、大気がざわめき始めた。


(私はマナに愛されてますからね。……これは私の加護の効果ですね)


(そうじゃな。小娘は無駄に誇らしげじゃが、確かにマナの濃度が上がっておる)


(“無駄に”は余計ですよ)


 なるほど……ハクアが中にいることで、大気のマナが勝手に集まりやすくなっているらしい。

 魔術を撃つだけなら確かに楽だ。……ただし、千本も撃たなければならないなら話は別だ。


「はい、一発目――撃て!」


「ひぃぃ……っ、ディスト!」


 詠唱と同時に魔力弾が放たれ、標的の魔力人形を吹き飛ばす。

 その瞬間、再びマナが押し寄せ、すぐに次弾を撃てる状態になる。


 ――つまり、撃ったらすぐ次が撃てる。

 休む暇が、ない。


「ほら二発目、三発目! 足が止まってる!」


「うわぁぁ……! ディスト! ディスト! ディスト!」


(おお、意外とテンポよく撃てるじゃないですか)


(この調子で千発などすぐじゃな)


(お前ら、他人事だと思って好き勝手言いやがって……!)


 額から汗が滝のように流れ、息が荒くなる。

 しかしレイさんは容赦なくカウントを重ねていく。


「……九百九十七! 九百九十八!」


「はぁ……っ、はぁ……っ!」


「ラスト二発、全力で!」


「――ディストォォ!! ……ぜぇ……ぜぇ……っ」


 千発目が的を撃ち抜いた瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。

 その肩に、レイさんが満足そうに手を置く。


「よし、今日のところはこれで終わりだ。……明日は二千発な」


「ひぃぃぃぃ……」


 こうして地獄の鍛錬の日々が――さらに深い地獄へと変わるのであった。

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