表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

12. vsドラゴン!?


それから半年が過ぎた。

レイの厳しい指導のもと、俺はひたすら魔術の修行に明け暮れた。風、火、水。三属性を意識的に引き分ける訓練をこなし、今では詠唱の途中で属性を変えることすらできる。そして今日、ついに実戦訓練の日を迎えた。

場所は村から少し離れた、木々がさらに鬱蒼と茂る森の奥。


「いいか? 奏。相手はオークよ。一人前の冒険者が二人掛かりでようやく倒せる相手。本気でかからなければ、命はないぞ」


レイの低くも凛とした声が、俺の闘志を煽る。腰にはレイから渡された短剣が一本。魔術が通用しない時の最後の頼みだ。


その時、ガサガサと茂みが揺れ、人型のシルエットが現れた。身長は俺の倍近く。緑色の肌に、鋭い牙。──オークだ。


「よし、かかってこい!」


俺は不敵に笑い、素早く風の球体を放った。「グッ」とオークが呻き、左肩に直撃した風の魔術が、わずかな傷をつける。だが、それだけだ。オークは怒りの咆哮をあげ、持っていた棍棒を振り上げて突進してきた。

「甘いんだよ!」


俺は回避しながら、間髪入れずに炎の魔術を放つ。しかし、オークの分厚い皮に阻まれ、効果は薄い。水の魔術も試したが、これもただ濡れるだけで、攻撃にはならない。


「くそっ、効かねぇ……!」


オークの棍棒が、俺の頭上をかすめて地面に叩きつけられる。轟音と衝撃が、俺の体を襲った。


「まだまだ訓練が足りてないな」


レイの声が飛ぶ。俺は息を切らしながらも、もう一度ディストを放つ。今度は風と水の魔術を同時に発動させ、オークの足元を滑らせようとするが、それすらも効果はなかった。


「もういい」

レイが短く呟くと、一歩前へ踏み出した。その瞬間、レイの全身からとてつもない魔力が噴き出す。俺がこれまでに感じたことのない、巨大で底の見えない魔力の奔流。

レイの手が軽く振られると、辺りの木々が震え、風が唸り声を上げた。次の瞬間、オークの体が跡形もなく消滅した。いや、消滅したのではない。ただの風の魔術だったはずなのに、オークの体がバラバラに、塵のように霧散したのだ。

呆然とする俺に、レイは背を向けたまま言った。


「見たでしょう。これが、実戦だ」


俺は言葉を失った。この半年間の修行が、いかに浅はかなものだったか。俺の魔術が、いかに無力なものだったかを思い知らされた。

その時だった。


「レイさん、後ろ!」



俺の声に、レイが振り返った。その瞬間、森の奥から無数の魔物の群れが押し寄せてきた。オーク、ゴブリン、コボリン……。村の周辺では考えられないほどの数が、牙を剥き出しにしてこちらに向かってくる。

「珍しいわね、魔物の軍隊なんて」

レイはそう言う。その表情に焦りはない。魔物の大群を前にしても、彼女は全く怯む気配がない。だが、彼女の視界に俺の姿が映らなくなっていた。


「奏……!?」


レイは驚愕に目を見開く。俺の姿は、いつの間にか消えていた。

視界が戻った時、俺は森の奥深く、誰も踏み入ることのない場所に立っていた。周囲には巨大な岩石がゴロゴロと転がり、不気味な静寂が支配している。


「……レイさん?」


俺が周囲を見渡すと、その岩陰から、純白の鱗を持つ巨大な生物が姿を現した。



「……りゅ、う?」


あまりにも巨大で、あまりにも美しい。そして、その白い鱗から放たれる圧倒的な威圧感に、俺の足はすくんだ。サティスが言っていた、人間が最も恐れる魔物“竜”。だが、その存在は、単なる魔物というよりは、気高い神のようだった。


「ひっ……!」


全身を駆け巡る恐怖に、俺は魔術の詠唱すら忘れていた。いや、違う。魔術を唱えようとしても、恐怖という感情が邪魔をして、大気中のマナを収束できない。


「くそっ、このっ……ディスト!」


なんとか絞り出した声と共に、俺は風の魔術を放つ。だが、その球体は竜の体をかすり、まるで意味をなさない。

竜はゆっくりと首を傾げ、俺を嘲笑うかのように、低い声で言った。



「──大気中のマナを人間に使うなどふざけたことを……。実に不愉快です。消えてください」


次の瞬間、竜の口から放たれたのは、強大な魔力の塊。俺はそれを避けきれず、まともに喰らった。全身を灼きつくすような熱と痛みが俺を襲い、俺の意識はそこで途切れた。


気が付くと、俺は竜の爪の間に横たわっていた。体はぼろぼろで、動くことすらままならない。悔しさ、情けなさ、そして恐怖。あらゆる感情が、俺の心に渦巻いていた。




(……このまま、やられてたまるかよ!)

その時、俺は心の中でサティスに語りかけた。


(サティス、力を貸せ……)

(ようやく妾の出番か。待ちくたびれたぞ。だが、そなたの魔力回路については保証できんぞ)

「……わかってる」


(レイには悪いが、一時的に魔力断絶を破壊して、奏の魔力回路に妾の魔力を流し込むぞ)



俺はサティスの言葉に小さく頷く。


(よし! いくぞ!)



サティスの声と共に、俺の全身に温かく、それでいて強烈な力が流れ込んできた。血管が脈打ち、神経が震える。それは痛みではなく、体が本来の力を取り戻していくような感覚だ。

そして、その力が最高潮に達した時、俺の体から一度体験したことのある巨大な魔力が溢れ出した。魔力回路に禍々しい魔力が流れてくるのがわかる。閉ざされていた扉が開き、これまで感じることのなかったマナの奔流が、俺の全身を駆け巡る。

俺はゆっくりと立ち上がり、竜を睨みつけた。恐怖は消え失せ、代わりに生まれたのは、静かで、燃え盛るような闘志。




「よくもやってくれたな。リベンジマッチだ」



俺は両手を広げ、全身から溢れ出る魔力を解放する。その瞬間、俺の周りに渦巻いていた三つの属性のマナが、まるで拒絶するかのように弾け飛んだ。代わりに、俺の全身から噴き出すのは、サティスが持つ漆黒の炎と闇の魔力。

俺の背後で渦巻く漆黒の魔力に、竜はわずかに後ずさった。その金色の瞳に、警戒と、そして微かな恐怖の色が浮かぶ。


「な、なんて魔力……! この悪しき気配、まさか……魔神!?」


竜の声が、僅かに震えていた。高貴な存在である竜が、俺の中にある魔神の魔力に怯えている。


「ふざけんな、このっ!」


俺は竜の言葉を無視し、放たれた炎のブレスを正面から向き合った。


「ディスト!」


俺の魔力回路から放たれたのは、風や水ではない。漆黒の炎と闇の魔力が混ざり合い、これまで見たこともない異質な竜巻が生まれた。それは竜巻というより、黒い太陽のようだ。竜の炎のブレスと黒い竜巻がぶつかり合い、爆音と共に、辺り一面に激しい光が広がる。

竜巻の中心で、俺はさらに集中力を高めた。漆黒の炎と闇の魔力が、俺の意思に応えていく。二つの力が、複雑に絡み合い、より強力な魔術へと昇華されていくのを感じた。


俺は渾身の力を込め、その黒い竜巻を竜に向かって放った。

竜は驚愕に目を見開く。その顔には、初めて見る焦りの色が浮かんでいた。



「馬鹿な……、魔神の魔力なんてあり得るはずが……」

竜の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。黒い竜巻は、竜の体を飲み込み、地面へと叩きつけた。

俺は、その場に崩れ落ちた。全身から力が抜け、指一本動かせない。



(やったのか?)


魔力回路から魔力が空になるのを感じ、そのまま地面に倒れ込んだ。意識が遠のくと共に、この世界の厳しさと、魔術の深遠さを、改めて知ることになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ