すれ違い
今回は少し長めのお話です。『 あいつもう走れないかもしれないー』退院して待ち受けてたのは希望か、絶望か。
第4話ぜひ最後までお楽しみください。
『今日は各所でゲリラ豪雨が心配されるようです。傘の準備を・・・』
仁のお見舞いへ行った日の次の日、休みが終わり学校が再開した。朝登校すると、仁の姿が見え、話し
かけようと思ったが、まだ何故か怖いと感じてしまっていった。そのこと以外は普段の学校生活であり、特に何ら事件も起きなかった。強いて言うならば、学校に持って行った弁当の中に箸が入っていなかったこと事件だろうか。帰ったら母さんに報告しよう。そんなこんなで、部活の時間が来た。
「あいつは来るかな」
つぶやきながら、玄関へ向かった。いつもならあいつと一緒に部活に行っていたのだが、今日は珍し
く、教室にいなかった。先に行ったのだろうか。とりあえず、あいつにLINEで聞いてみよう。
【今日部活来るん?】
4分後にポケットに入れたスマホが鳴った。
【いや行けそうにないわ】
「え?」
慌てて【大丈夫なん?】と返信した。
【心配すんなって!元気だから大丈夫】
部活に来ないことを鑑みてもかなり調子がすぐれないようだ。
【ならいいんだけど・・・なんかあったらうち来いよ】
既読だけついてそのあとの返信はなかった。
とりあえず部活に行こう。自分の下駄箱へと向かい、上履きを脱いだ。部活の練習着の入った袋と、練
習用の靴が入った袋を右手に持ち、左手で上履きをしまい、登校用の靴へと履き替えた。この登校用の靴
もかなりの年季が入っている。もう三年間も履いてボロボロである。最近買ったスマートウォッチを確認
すると『15:55』と表記されている。平日の部活は16時集合であるが、あと五分しかない。それま
でに靴を履き替え、練習着に着替えなければならない。『とりあえず急ごう』そんなことをつぶやきなが
ら走って部活へと向かった。
「俊也遅いぞ」
監督が眉間にしわを寄せながら言う。ギリギリ間に合うと思っていたが少し遅れてしまった。着替える
のに少し手間取ってしまった。
「すみません」
今日の練習は記録を計測するらしい。いつも通り跳ぶことができれば、良い記録を出すことができるだ
ろう。
「並べ!今から計測を始めるが、緊張しなくていい。今の自分の力量を知るために行うだけだ。ここでの
結果を受け入れ、課題を見つけ、そこを練習で修正していけばいいからな」
この計測ではひとり三回跳躍を行う。次々と後輩が跳んでいくが、みんな思うように飛べていないよう
だ。それもそうだろう、ここは校庭であり、砂だ。試合での会場はすべてタータンでありうまく飛べなく
て当然である。ここでの記録は、タータンの-3センチ程度と考えていいだろう。
そんなことを考えているうちに自分の番が回ってきた。インターハイに出場するということもあり周り
から注目を浴びる。『大丈夫だ。練習のとおりに跳べばいい』そう言い聞かせる。
「次、俊也な。自分のタイミングで始めてくれ」
最初、200センチから始めた。高校生で200センチを跳ぶ選手はなかなかいない。俊也の自己ベス
トが212センチなためインターハイ上位入賞は間違いないだろう。しかし、油断はしてはいけない。そう思っていても、人間、どこかで自分に甘くなる瞬間というものがある。
「いきます!」
俊也は掛け声とともに助走をつけ始めた。ゆっくりから助走をはじめ、あとから徐々にスピードを上げ
ていった。左足で踏切、背面飛びへ。俊也の体はきれいな弧を描きポールを越えた。そう思っていた。着地した後ポールが激しく揺れ地面へと落下していった。なぜだろうか、いつも練習では余裕で跳べている。関東大会前から失敗したことはなかった。
「あと二回あるから大丈夫だぞ!」
先生からの励ましの声が聞こえる。頭が混乱しながら俊也は助走位置へと向かっていった。
「行きます」
深呼吸をしてから助走へと入った。さっきは踏切が少し前過ぎた気がしていた。そのため、少し早めに
踏み切り、跳ぶ。それだけを意識し、助走を速めた。俊也は少し早めに踏み切り、背面飛びをした。しか
し、またしても結果は同じであった。跳べない自分への苛立ち、焦りそんな感情が俊也の心を蝕んでいく。スポーツ全般において、感情に支配されてしまったら自分の中の最高のパフォーマンスを発揮することは難しくなる。
三回目も結果は同じであったーー
悔しい感情を抱いたまま、部活の時間が終わってしまった。今日は急いで帰ろう。先生が何かを言いた
げな表情を浮かべていたが、足早で帰った。
家へ帰ると、いつもならまだ店が開いている時間にもかかわらず、今日は珍しく閉店していた。特に気にせずお店のドアを開けると、仁がカウンターの席に座っていた。
「仁?!」
驚きのあまりつい声が出てしまった。
「なんで驚いてんだよ」
そう言いながら仁は今日の部活前にやり取りしたLINEの画面を見してきた。そういえば『うち来いよ』
と返信していた。
「お前に相談したいことがあってさ」
うつむきながら言う。そんな姿に、陸上をやめてしまうのではないかと少し不安になった。
「なんだよ急に」
「俺さ、インターハイさ、棄権しようと思ってるんだよね・・・」
『なんでーー』心の中での第一声がその言葉だった。怒りと悲しみがすべてを飲み込む津波のように押
し寄せてきた。
「ふざけんな!二人で約束した”夢”を諦めるのかよ!」
俊也の声が店内に響き渡る。
「しょうがねぇだろ!俺の足は!もう・・・前みたいには動いてくれねぇんだよ・・・」
仁は涙ながらに叫んだ。
「お前に相談しようとした俺が馬鹿だったわ・・・今日は帰る・・・」
そう言って足早に店を出て行ってしまった。
「おい!待ってって!」
俊也の叫びは仁には届かなかった。
「クソ!」
机にこぶしを叩きつけた。ダン!と大きな音が鳴る。
「うるさいよー!」
遠くから母さんの声が聞こえた。外出しているわけではなかったのか。仁との言い合いを聞かれてしま
ったと思うと、少し恥ずかしくなる。なぜ、あいつの意見を聞いてやらなかったのか、自分の意見を一方的に押し付けてしまったという罪悪感が恥ずかしさと同時に襲ってきた。
「・・・」
俊也は黙って自分の部屋へ、階段を駆け上った。
自分の部屋へと戻ると即座にスマホを開いた。仁に謝ろうと思ったからである。しかし、どう切り出し
て話しかければよいのか、まず話を聞いてくれるだろうかという不安に駆られた。
「謝るか・・・」
『仁ごめん・・・俺が自分の意見を押し付けすぎた』
ーー10分後ーー
スマホが振動した。仁からの返信だろうか。
『豪雨予報 強い雨(40㎜/1h)』
「紛らわしい」
そういえば今日はゲリラ豪雨の可能性が高いらしい。そんなことを思っていると『ピシャン!』と大き
な音が鳴った。雷だ。窓の外を見てみると、積乱雲が天高く伸び、どす黒い色をした雲が瞬く間に空を覆
った。すごい量の雨だ。窓までびしょびしょになるほどの雨で横殴りである。
「あいつちゃんと家に帰れたかな」
足が悪い仁は、家に帰るまでかなりの時間がかかるだろう。それなのに仁を追いかけもせずに帰らして
しまった。そんなことが頭をよぎったとき、体が勝手に階段を駆け下りていて、傘を持って走り出してい
た。
雨が目に入る。横殴りの雨が視界を塞ぎ、まるで仁のもとへとたどり着かせまいとしているかのようだ
った。
『きっとこの雨だ。コンビニとかによっているに違いない』
俊也は仁の家への通り道であるコンビニをすべて回ったがどこにも彼の姿はなかった。
『一応家にも行ってみるか』
俊也は再び仁の家へと走り出した。
仁の家に向かう途中には大きな橋がるのだが、走りながら河川敷を眺めていると、土砂降りの中人影が
ポツリとあった。
「もしかして・・・」
希望にかけ河川敷へと降りる坂を下った。いつもよりもかなり水位が上がっている。こんなとこで何か
をしているあの人は頭がおかしいのだろうか。そう思い近づいてみると見覚えのある動きをしていた。
「仁か・・・?」
雨が強くて顔がはっきりと見えない。しかし、動きの癖が仁と酷似している。幼稚園から一緒なのだ、見間違えるはずがない。
「仁!」
大きな声で叫ぶと、その人はこちらを向いた。さらに近づいてみる。
「やっぱり仁じゃんか!何してるんだよ!危ないぞ!」
やはり仁だった。仁はドリルをしていた。ドリルとはスキップや腿上げ、足掛け、ケンケンなど走るための基本動作の練習である。しかし、その姿はどこかぎこちなく、陸上を始めてすぐの人のようにも思え
る。
「仁!無理すんなって!」
走って近寄り止めに入った。
「邪魔すんなや!」
俊也の腕を振りほどきそれでも基本動作を練習している。
「やめろって!この雨だし、お前の足じゃもう・・・!」
言葉が詰まる『もう』の先の言葉が言いたくても声に出ない。仁がもう前のように走るkとはもう無理
だということはわかっていた。わかっていたのに信じたくなかった。簡単には夢を、約束をあきらめたくはなかったのだ。だから店ではあんな風に言ってしまった。それを仁はわかっていたのだ。どこまでも優しいこいつは、自分の足が動かなくともまた試合に出れるようにとここで練習していたのだ。
「どうすればいいんだよ!俺は・・・!」
仁は泣き崩れた。
「もう何回も基本動作を確認した・・・でも!どれだけやってもうまく足が動かないんだよ・・・」
何度も自分の足を叩きながら叫ぶ姿を見て、どれだけ自分が無責任なことを言い、彼を苦しめてしまっ
たのか改めて感じた。
「仁・・・」
「もう俺は走れない・・・お前との夢も叶えることができない・・・」
俊也は急にアイデアが頭に浮かんだ
「仁。今思いついたんだけど・・・」
仁は顔を上げた。
俊也はしゃがみながら仁の目を見て言う。
「俺の専属のマネージャーになってくれないか?」
「え?」
「そうすればお前と二人でインターハイに出れる。そんで、俺がインターハイで勝って、日本代表のマネ
ージャーにお前を指名する」
「少し考えさせてくれ・・・」
「もちろん」
雨が遠ざかっていく。二人の新たな道を照らすかのように太陽の光が差し込んだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。最初に構成した話からどんどん書きたいことが増えて行って、途中書きながらストーリーを考えました。そのため、日本語がおかしくなっているかも・・・。もし、日本語がおかしいなどありましたらコメントお願いします。