晴れのち曇り
今回は仁との病院での再会、と仁の容態について執筆しました。
友情を感じるストーリーです。二人はまた陸上を続けることができるのか!
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
今日もまた、セミが鳴いている。
自然と目が覚めふと時計を見た。
「7時24分か」
昨日はいつの間にか寝てしまっていた。心身ともに疲弊していたからだろう。日曜の朝、今日もコーヒーのいい匂いが部屋に立ち込んでいる。そろそろ母が呼びに来る頃だろうか。
コンコン
部屋の扉をノックされた。
「ご飯できたよー」
母さんが部屋まで呼びに来た。俺の予想は的中した。
「はいよ」
俊也はベットから出て、母とともに一階へと向かった。
今日の朝ごはんは、ハムエッグサンドだ。
「いただきます」
母さんは何を作ってもおいしい。アップルパイもいいがこれも仁に持って行ってあげたい。
「食欲は変わらないのね」
「母さんの料理はうまいからね」
「うれしいこと言ってくれるじゃん!でも、昨日帰ってきたときすごい顔してたから心配してたのよ?今
日はいつもと同じで元気そうだし、なんかいいことでもあった?」
「心は全然元気じゃないよ。まだ不安の気持ちが残ってるし、あいつともう陸上ができないかもしれないと思うと胸が苦しいよ。けど、あいつと会ったとき目に見えてわかるぐらい落ち込んでたら、治る病も治んないよ。病は気からっていうし」
「深いようで浅いようで」
母さんは馬鹿にしたような顔で笑いながら言う。
「深いだろ!」
俊也は、つい吹き出しながらそう言った。
「いいから早く食べちゃいなさい!また遅刻するよ!その間にアップルパイ持ってけるようにしておくから」
「ありがとう」
俊也は急いで食べた。
食べ終わって、食器を片付けようと椅子から立った時、テーブルの上に置いてあるスマホがブーブーと鳴り始めた。画面には監督と書かれていた。俊也は画面の応答ボタンを押した。
「もしもし、俊也です」
『もしもし、曽根崎だ』
少し焦っているように感じる。
「監督、もしかして、仁になんかあったんですか!?」
『ああ、仁は今後また走るのは難しいかもしれない。』
監督の声にいつもの力強さを感じない。
「そんな・・・」
『細かいことはあとで病院で話す。俺はもう病院にいるから早くお前も来い』
「わかりました。すぐ行きます」
俊也は電話を切った。不安感がさらに大きくなる。何の病気なのだろうか。治るのだろうか。リハビリ
は必要か。本番には間に合うのか。そんな考えが一気に俊也を襲う。
「俊也!しっかりしなさい!」
声が聞こえてたのだろうか。母さんが珍しく声を荒げた。
「あんたが落ち込んでてどうするの!一番落ち込んでいるのはあの子本人なんだからね!」
確かにそうだ。仁が一番絶望を感じているのだ。俺が支えてやらなければ誰が支えるというのだ。
「ありがとう。元気出た。急いであいつのところ行ってくる」
そう言いながら、玄関へと向かった。
「そうだよ!支えてやりな!あとこれ、忘れてる」
そう言って母さんはアップルパイの入った袋を渡してくれた。
「気を付けて行ってきなさいよ」
母さんは両手を腰に置きながら説教っぽく言った。
「いってきます」
扉を開けながら大きな声で答えた。俊也の中で何かが吹っ切れたようだ。
「今日も暑いな・・・」
今日は38℃まで上がるらしい。信号待ちをしているだけなのに汗が穴という穴からあふれ出てくる。地球温暖化って怖いなと最近よく思う。そんなことを考えているうちに、病院についた。自転車を駐輪場に置き、入口へと向かおうとしたとき、米山先生の後ろ姿が見えた。
「先生!」
そういうと、先生は驚いたような顔をしてこちらに振り向いた。
「なんだ、俊也か驚かすなよ」
「すみません。ちょうど自分も来たところなんです」
「そうか。ならいっしょに行くか」
「はい!」
そんな会話をしながら二人は病院へと入った。病院の中は空調が聞いていてとても涼しい。
「いや、しかしお前が元気そうでよかったよ」
そう先生が言う。
「急にどうしたんですか?」
きっと、あの出来事があったとき、泣いていたし帰る時も沈んだ顔をしていたからだろう。わかってはいたがそう言ってしまった。
「あの出来事でお前がかなりショックを受けていると思ってな。学校でも泣き崩れていたほどだしな」
やはりそうだった。
「確かにものすごくショックでした。あいつとの夢が実現しなくなると思ったら、悔しくてたまらなかったです。でも、あいつを支えてやれるのは俺だけです。一人暮らしでいつも一人で抱え込む。頼れる人が
俺しかいないんです」
「お前は強いな」
この人も過去に何かあったのだろうか。
「さあ、受付いくぞ」
二人は受付にむかった。
「すみません、お見舞いに来たものなんですが・・・」
先生が受付をしてくれた。
「はい。患者様のお名前とご関係を教えてください」
「笠原 仁です。彼の部活の副顧問をしています」
「そちらの方は?」
「彼の友達です」
「笠原様ですね。ご関係はご友人と笠原様の部活の副顧問でよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。ではこちらにお二人のお名前をご記入ください面会時間は15分です。」
ペンを握る指先が少し震えていた。いざ、顔を合わせるとなると何か心がざわざわとうるさいようで、心臓の鼓動が速くなっているのを感じた。
「ありがとうございます。こちら面会証になります」
「ありがとうございます。」
面会証をぶら下げ静かな廊下を歩く。面会証には「西棟4階・401号室」と書かれている。消毒液に
おいが、鼻を刺す。二人の足音が廊下に響いている。
「ここだ」
『401』と書かれた扉の前に俊也は固まってしまった。
「・・・ちゃんと話せるだろうか」
考えていたことが口に出てしまった。
「大丈夫だ」
先生は励ましてくれた。
ドアノブにかけた手がわずかに震える。
「仁・・・」
扉の向こうにいるあいつは何を思っているのだろう。もう一度一緒に陸上ができるだろうか。考えてい
てもしょうがない。意を決して俊也はドアを開けた。
「おう!俊也!来てくれたのか!」
ぎこちない笑顔で俺の名前を呼ぶ。そんな仁を見て、涙が込み上げてきた。
「仁・・・お前大丈夫なのか」
そう言って近づくと隣に監督が座っていた。
「大丈夫だ」
仁はそういう。だがその言葉には力がなく、震えていて今にも消えてしまいそうな声をしていた。
「全然大丈夫じゃねぇだろ・・・」
隣で監督が言う。
「いわないでくださいよ!こいつがもっと落ち込んじゃうじゃないですか・・・」
仁は笑いながら言った。でも、監督が言わなくても俺にはわかっていた。第一声を聞いた瞬間から、大
丈夫なわけないと。
どんな言葉をかけていいのだろうか。病室に沈黙が続く。
「そうだ仁、母さんから新作のアップルパイもらってきたぞ。よかったら食べてくれ」
無理に話題を変えてしまった。
「おお、絶対うまいじゃんサンキュー」
仁はうれしそうな顔をしている。
「ところでさ、俺の病名なんだけど・・・」
仁は重い口を開いた。
「ベスレムミオパチーだった」
「なにそれ。治るのか?」
「お医者さんが言ってたんだけど、どうやら指定難病らしいんだわ」
「指定難病・・・」
「遺伝が一番の原因らしい。俺は物心ついた時には両親がいなかったから、どっちがこの病気を持ってた
かもわからない。まだ歩いたりはできるんだけど、徐々に歩けなくなっていくらしい。治療方法もないん
だってさ・・・インターハイ出れないかもしれない。」
「・・・・・・」
俊也は言葉が出なかった。
黙っていた監督があの日の出来事について話し始めた。
「あの時、クラウチングスタートの練習をしていてな、仁の番が回ってきてスタートを切った瞬間に足が
動きづらくなったらしい。それで倒れこんだときに足首をひねったらしい。最初は足首をひねっただけだったからすぐに病院に連れて行こうと思った。けど、足が動かないって仁が泣きながら言っていたから、とっさに救急車を呼ぶように叫んでしまった」
「明日には退院できるから心配すんなって」
仁はきっと俺を心配させまいと気を使っているのだろう。症状を聞く限り、陸上を続けていくのは難し
い。でも、諦めてほしくない。また一緒に部活がしたい。
「なら早く帰って来いよ!」
そう言ってやることしかできなかった。
「米山先生、さっきがらずっと黙ってるけど病人の俺に何かないの?」
仁がにやにやしながら言う。
「ああ・・・そうだな、みんなお前のことを待ってる。あきらめずにまた一緒にみんなで走ろう」
仁は何度もうなずいた。
「もう15分経ってしまった。戻ろうか」
先生は時計を確認しながら言う。
「ありがとうございました。俊也、待ってろよ!」
その言葉を背に三人は仁の病室を出た。
廊下の窓から空が見える、先ほどまで快晴だったのに、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした雲が、空を覆っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
4話目は一週間以内には投稿できると思います。地の文を考えるのが苦手で毎回手こずっています。実はこの仁と俊也は私がいた高校の陸上部の二人をモデルにしています。フィクションではありますが、これからも楽しんで読んでいってくれると幸いです。