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最後の夏が始まった

仁は100mで、俊也は高跳びで、最後の夏に賭ける!そして、二人の道はここから始まる!

ぜひ最後まで楽しんでいってください。



 夏の匂いがする。どうやら冷房は付けずに窓を開けて寝ていたらしい。朝なのにセミがたくさん叫んでいる。昨日の記憶はほとんど残っていない。きっと疲れていたのだろう。スマホを充電し忘れている。ベッドから起きると、空き巣にでも入られたのかとでも言われそうな景色が広がっている。本当に最悪な朝である。部屋が汚いとメンタルにも悪影響が出ると前にテレビでやっていた。前から片付けは苦手で整理整頓ができず、母さんに「きれいにしなさい」とよく言われていた。


―――ぐぅぅぅ


 おなかが鳴る音で、記憶という引き出しからものを出す手が止まる。脳内も整理整頓できないのかと一瞬思ったが、お腹がすきすぎて引き出しに戻ることはなかった。


『九州から関東は危険な暑さになります。外出の際は熱中症対策を行い、気を付けて外出してください』

 

 階段を下りるとニュースの音が聞こえた、起きた時あんなにも夏を感じさせられるような匂いがしたのだ暑いに決まっている。


「俊也!おはよー」と母さんが朝ごはんをテーブルに置きながら、笑顔を振りまく。まぶしい、今日が暑いのはこの人のせいなのかと思ってしまう。

  

 コーヒーの香りとピザトーストのチーズやピーマンなどの香ばしい匂いが、脳を直接刺激する。おなかの中にもセミがいるのではないかと思うほど、声がする。


「いただきます!」

 

 母さんの作る料理はおいしい。なんせうちは喫茶店を営業しているのだ。お客さんにもかなり好評でみんなの憩いの場といっても過言ではない。チーズとケチャップが合わさるだけでなぜこんなにもおいしいものができるのだろうかといつも思う。それと同時に、母さんの料理は『今日も一日がんばれ』と言われているような味がするのはなぜだろうか。この味がお客さんにも愛される理由なのだろう。


「最近、調子はどう?」母さんが聞いてきた。コーヒーを口につけた際の湯気でメガネが曇っている。


「まあまかな。急にどうしたの?」


「ただ気になっただけよ」と何か他にも言いたげな感じであったが、そこは特に触れずに、最後の一口のトーストをコーヒーで流し込んだ。


「ごちそうさま!ごめん時間がないから食器ここ置いとくわ!」


 起きた時間帯も遅かったことや、少し食べるのが遅かったせいで時間がない。遅刻したら監督に怒られてしまう。


 『・・・かに座のあなたは残念!最下位です・・・あまり運気が上がらず、外出しないほうがいいかも?そんなあなたのラッキーアイテムは釣り竿です!』


朝のニュースありきたりな占いだ。俺はかに座であるため今日は最下位らしい。最悪だ。だが、所詮占いなんてあたるはずがない。そんなことを考えながら部活へと行く準備を進める。


「今日も暑いから気を付けて行きなさいよ!」


「わかってるって!いってきまーす!」

 

 裏口のドアを開けると一気に熱風が押し寄せる。コンクリートの焼けた匂いや、花壇に咲いてある花の匂いが入り混じり複雑な匂いが頭を混乱させる。学校は自転車で通っている。関東大会で優勝した時に母さんに買ってもらったものだ。水色のさわやかな色が夏に良く似合い、心なしか少し涼しき感じられた。


「めんどくさいけど今日も頑張ろう」心の中でつぶやき、やる気を高めた。

 

 学校へと向かう道で、いままでの関東大会の記憶が蘇る。高校1、2年では関東大会に出場できるも、あまり良い結果が残せなかった。その悔しさをばねに練習に打ち込んだのが結果につながったのか、3年でやっと関東大会で優勝することができた。あの感動をまた味わいたい。


 余韻に浸っているといつの間にか校門の目の前まで来ていた。結構ギリギリの時間ではあるが何とか遅刻せずに済みそうだ。今日は土曜日で部活だけ午前にある日である。最近は調子がいいのか部活をする時間がとても幸せで、練習中にもニヤニヤしているときがあると言われたことがある。


「お前いつもギリギリだな」


 急に後ろから声をかけられ、足が空中に浮いてしまうのではないかと思ってしまうくらい身体が跳ねる。


「びっくりした・・・仁か・・・」


「お前驚きすぎ」と腹を抱えて笑っているこいつは仁という幼馴染だ。幼稚園から一緒の奴で、高校も「一緒のとこ行きたいんだよ」と泣きながら勉強して、何とか入学できたらしく、もう15年の付き合いだ。

 

「お前もギリギリじゃねぇか」


「しょうがねぇだろー?腹壊したんだから」


「変なもん食ったんじゃねーの?お前ひとり暮らしなのに料理できないし」


「一人暮らしで料理できない奴はいっぱいいるだろ。昨日はすこしニンニク多く入れすぎただけだし」

 

 なんとなく、やばそうな見た目のものが脳裏に浮かぶ。


「仁の料理スキルは人並み以下だろ。てか、飯に困ってるんだったらうちに来なよ。母さんが喜ぶし」


「俊也のお母さんの飯はうまいけど、お世話になってばっかじゃ俺の料理の腕が上がらん!」


「変なプライドだな。とりあえず部活いくぞ」


「おう」


 グラウンドへと向かう途中、仁がしゃがみ込み何かをしていたが「先、行くわ」と言い残しグラウンドへとまた走って向かった。


「遅いぞー!お前ら!もうみんな集まってるぞ!」


 陸上部の監督である曽根崎先生が大きい声で叫んだ。まだ時間はあるはずなのにと思い、左腕につけている、スマートウォッチを確認する。〈8:29〉と表記されていた。あと一分で集合時間となる。それならみんなが集まっているのも納得がいく。


「すみません!」

 

 さすがにギリギリすぎて申し訳なくなる。時間管理もしっかりしなければ一人前のアなスリートにはなれない。砂埃がのどに張り付きむせ返りそうになる。今日は風もあるようで、砂の波が立っている。まるで海のような光景に、久しぶりに海へ行きたいと思わせられた。きっと暑すぎるせいだろう。

 


 


 部活のミーティングが始まった。


「今日の練習メニューは事前に連絡した内容を行ってくれ。あと仁と俊也はこのあと残るように。以上」


 部活のLINEがあり、そこでいつも練習メニューが部長を通じて伝達される。「残れ」という言葉が頭の中でこだまする。遅れてきたことを怒られるのだろうかと体がこわばる感じがした。


「すまんな。少し時間をくれ。お前ら二人は来月インターハイが控えている。関東大会よりもかなりレベ

ルが高い。だが、ここで必ず優勝して、いつか日の丸を背負えるように練習をしていくぞ。ちなみに、二人の自己ベストはいくつだ?」


「え・・・怒らないんですか」

 

 身構えていたのに思っていたこととは違うことを言われ、少し声が裏返る。


「二人とも遅刻はしていないからな」とニコニコしているが、本当は心の中で怒っているのではないかと思い、少しゾクッする。


「で、二人の自己べは?」


「俺は10秒30っす」


 仁は本当に足が速い。これだけ早いのにU18にも選ばれなかったのが不思議でしょうがない。


「俊也は最高どれくらい跳べる?」


「2.12mです」


 俺も高跳びではなかなか高いほうだとは思っているがナショナルチームへの道はかなり長い。


「二人ともあと少し足りない状況だ。仁はあと0.5は縮めたい。俊也はあと10㎝は高く飛びたい」

  

 あと一か月しかない。いけるだろうか。不安がという感情が脳を駆け巡る。


「俊也!なにそんな顔してんだ!夢に近づくかもしれないんだぞ。俺らならできる!」


 どうやら顔に出ていたらしい。仁にはいつも元気づけられる。陸上を始めたきっかけも仁である。仁は足が速い。彼も関東大会でも2位に入賞した。そんな彼に憧れて小学3年生の時に陸上を始めた。俺はそこまで足が速いほうではなかったが、跳躍力はあった。そのため、走り高飛びを専門にしている。仁と一緒に日本代表になることが目標だ。


「そうだな・・・やるしかない!」


 それぞれの練習場所へと向かう。しかし、日差しが直接肌を刺してくる天気なのにも関わらず、遠くに見える入道雲が夏を思わせると同時に、心のどこか遠くの場所で少し曇り始めている気がした。




 


 



















 

 

第一話目最後まで読んでいただきありがとうございます。

執筆中もこの世界で青春している感じがしてワクワクしました!

読んでくださったあなたもそんな感覚になってくれていたら幸いです。

完結するまで俊也と仁のようにともに走り抜いていきましょう!

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