天崎昇華
九月一日。夏休み明けての登校日だ。まだ夏は終わってないようで陽がじりじりと照りつけてくる。それでも気温は猛暑の八月よりも幾分下がったみたいに思える。僕は、高校までの坂道をリュックを背負いながら上っていた。あともう少しで高校に着きそうだ。他の生徒達もちらほら見えてきた。切井さんの姿を懸命に探したが、見つかる気配はない。ついでに龍斗も探したが、こちらもいなかった。いつも登校は一人ぼっちだ。ほんのたまには女の子と嬉々と喋りながら登校してみたいものだ。そう思って、足を前に出した。
すると、後ろから、「隆ちゃん」と誰かが声をかけてきた。僕はその声で誰だかすぐにわかったが、振り向かず、足を動かした。やがて、走ってくる足音がして、僕が横目でちらっと見ると、天崎昇華が僕の横に並行して歩いていた。大きなつり目と高い鼻を持ったその顔は僕の顔を注視していた。天崎とは小学校が同じで、中学校で別々となり、高校で合流した。まさか天崎と一緒のクラスになるなんてと四月の時は驚いたものだ。
「おはよう、隆ちゃん」と天崎が元気よく言った。
「ああ」と僕は生返事をした。
「九月なのにまだ暑いよね」
「ああ」
「手紙、読んでくれた?」
「ああ」
「本当に読んだの?」
「ああ」
「読んでたら、勉強会の返事の手紙、招待を受けるにしても断るにしても、よこしてくれてもよくない?ってか私、そう書いたよね?」
「ああ」
「ねえ、真面目に聞いてる?」
「聞いてる」
「なんで無視したの?」
「勉強が忙しくて返事を書く暇がなかった」と僕は嘘を吐いた。
「本当に?」と天崎は疑った。
「本当に」
「まあ、それなら仕方ないけど。隆ちゃんの手紙が来るの、楽しみに待ってたんだからね」
「そうか」
「隆ちゃん、二回目の手紙にも書いたけどやっぱりあの事、まだ根に持ってるの?」と天崎は恐る恐る訊いてきた。
「ああ、もちろん」と僕は天崎を軽蔑するように横目で見た。
「やっぱりそうだったの……。私の軽はずみな言動で隆ちゃんを傷つけてしまって、本当にごめんなさい」と天崎は謝った。
僕は、天崎が本当に反省しているのか、横目でその真意を確かめた。どうやら本当に反省しているらしく、しょんぼりとしている。天崎を許そうか許すまいか、迷った。考えに考え抜き、結論に至り、それを口にした。
「いいよ。当時のことは許す」
「本当に?」と天崎は上ずった声で言った。
「ああ、もう面倒くさくなった」
「良かった~。これで隆ちゃんとは仲直りってことね」
「ああ」
「隆ちゃんと昔みたいに話してみたかったからすごく嬉しい」
「いいや、それはできない」と僕はきっぱりと言った。
「え?どういうこと?」と天崎は混乱した。
「当時のことは許す。だが、その代わり俺に二度とかかずらうな」
僕は早足で天崎を振り切って昇降口に着き、教室へと向かった。




