手紙3
僕は原稿をリュックに入れて、高校まで歩いて向かった。相変わらず暑かったが、それでも足どりは緩めなかった。高校に着き、下駄箱の蓋を開けた。また一通の手紙用封筒が入っていた。恐らくまた天崎昇華によるものだろう。僕は仕方なくそれをリュックにしまい、職員室に向かった。廊下は誰も歩いてはおらず、しんとしていた。職員室に着き、扉をノックし、「失礼します」と挨拶して入った。職員室は、先生が二人しかいなかった。そのうちの一人に原稿を渡し、「これを朝比奈先生の机の上においてください」と頼み、その場をあとにした。
家に帰り、ベッドに寝転び、しばらくうとうとした後、封筒のことを思い出し、リュックを開けて、封筒を取り出した。封筒を開けると、手紙が入っていて、差出人はやはり天崎昇華からだった。その場ですぐに破り捨てようか迷ったが、一応内容を読んでからにしようと思い、手紙を読んだ。
「隆ちゃんさ、一緒に勉強しようって言ったのに、返事の紙をよこさなかったの何?無視したってこと?隆ちゃんってほんと最低。わざわざ夏休みの時間を削って手紙に書いて、下駄箱の中に入れておいたのに。あーあ、一緒に勉強したかったなー。隆ちゃん、頭が良いから、わからないことを訊いたら何でも優しく答えてくれそうなの、私、わかってるの。だから誘ったのにそれを無碍にするなんて。どうせ私がそんなにかわいくないから隆ちゃんはそうやって私を雑に扱うんでしょ。知ってるんだから、隆ちゃんが美人に弱いってこと。何でもお見通しなんだから、例えば、隆ちゃんが月美ちゃんを目で追ってることもね。驚いた?私、結構人のこと、ちゃんと見てるのよ。そうだわ、月美ちゃんも誘えば、隆ちゃんも勉強会に来てくれたのかな。私じゃどっちみち力不足だったってことね。私と隆ちゃんの距離が空いたのっ原因に思い当たることがあって、もしかしてあれ?昔、隆ちゃんが好きな人に私が近づいて隆ちゃんがあなたのこと好きだって先に伝えたから?本当は告白して付き合おうと思っていたのを私のせいで出鼻をくじかれたのが気に障ったからなの?それだったら、いい加減根に持つのはやめたらどうなの?昔って書いたけど、小学生時代のことよ?そりゃ、私が悪かったわ。でも、伝えなくても結局二人が付き合うことはなかったと思うけど。その子、別の男子のことが好きだったみたいだし。ねえ、もう水に流してよ。私は隆ちゃんと昔みたいに仲良く話したり、遊んだりしたいの。隆ちゃんのことが大好きなの。私、いっつも人の地雷ばっか踏むの、自分でも気づいてて、でも打つ手がなくて、やり場のない自己嫌悪に陥っているの。隆ちゃんに嫌われたいとか隆ちゃんを困らせてやろうとか微塵も思ってないから。それだけはわかってほしいの。あーあ、どうしたら隆ちゃんに私の気持ちがわかってもらえるんだろう?隆ちゃんに避けられれば避けられるだけ私が傷つくの、隆ちゃんはわかってるの?隆ちゃん、お願いだから、昔のことはきれいさっぱり忘れてさ、私と親しくしてよ。本当にお願い」
僕は手紙をたたんで、学習机の上に放り投げた。天崎と僕の距離が空いた原因は、天崎が言っている通り、小学生時代のいざこざが天崎と僕の関係に尾を引いている。たかが小学生時代のことというのはわかるが、当時の僕は、信頼していた天崎に裏切られたような気持になり、ひどくショックを受けたし、同時に憤りも覚えた。もちろん、天崎を許すことも考えた。だが、天崎はいっこうに反省する様子を見せなかった。それどころか、この手紙を読んでわかる通り、開き直ってくるのだ。そんな天崎をどうして許すことができよう?むしろ、小学生時代に比べて今のほうが憎たらしいまであるくらいだ。僕はベッドに再び寝転んだ。手紙を破らなかったのは、切井さんの名前が書かれていたからである。まさか天崎にばれているなんて思ってもみなかったし、また小学生時代みたいに告る前に切井さんに言われるんじゃないかと思うと、天崎と同じクラスであることを恨んだ。




