図書館
龍斗との勉強会を終え、僕は龍斗の家を出た。自転車にまたがり、家まで寄り道せずに直帰した。かなり疲れていたので、僕は夕食を食べずに、風呂だけ入って、そのまま寝た。
朝、起きると「ふわあ」とあくびを一つして伸びた。そしてベッドから出て、今日は何しようか考えた。まだ原稿を全くといっていいいほど書いてなかったので、今日は一日使って原稿を書き上げることにした。家で書いてもよかったが、より集中するために図書館に行くことを決めた。早速準備を済ませると、自転車に乗り、龍斗の家よりもさらに遠い図書館へと向かった。
図書館に無事着いた。が、暑熱のせいで汗がだらだらと流れ、背中にTシャツが張り付いて、なんだか気持ち悪かった。ハンカチを取り出し、汗を拭くと、ハンカチをしまい、自転車を図書館前の広場にある自転車置き場に停めた。自転車から降りると、図書館の入口へと向かった。図書館前の広場に裸婦の銅像が大理石の石壇に祈るように立っていた。僕はそれを一瞥し、すぐにクーラーの効いているであろう図書館内へと足早に歩いた。
図書館に入ると、果たしてクーラーが効いていてひんやりとして涼しかった。本を眺めたかったが、我慢して二階にある学習室へと足を運んだ。
学習室には人がまばらにいた。皆何かしらの勉強をしていた。僕は適当に席を見つけ、腰を下ろすと、「ふうっ」と一息ついた。背負ってきたリュックサックを床に下ろし、チャックを開けて、水筒を取り出すと、蓋を開け、中に入っていたきんきんに冷えたお茶をごくごくと飲んだ。蓋を閉め、水筒をリュックにしまうと、今度は途中まで書いていた原稿を取り出した。原稿のタイトルは「悪友」だった。主人公には悪友がいて、その悪友は悪さばっかりしてどうしようもない奴だったが、なぜか矛盾するかのように人情だけはあった。あるとき、主人公が路上で倒れた女性を見捨てて、大学の授業を優先したという話を大学の食堂でした。すると、悪友はいきり立って、「なぜ助けなかったんだ?思いやりこそ一番人間にとって大切な感情じゃねえか」と大声で言われ、そのとき初めて自分が悪友側だったことに気付いたという落ちの話だった。最初から最後まで大まかな筋は一通り考えてあるが、間の細かな文章を練るのに四苦八していたところだった。僕はうなりながら、原稿の執筆にとりかかることにした。
執筆しはじめてから、しばらく経った。ふと、見上げると開始から三時間も経過していたことに時計を見て気が付いた。進捗状況は起承転結の転まで書き上げていた。あと残りの結をもうひと踏ん張りして書き上げることに注力した。
それからやや経って、なんとか「悪友」の執筆を完遂した。僕は有頂天になって踊り狂いだすのを必死で抑えて、原稿などをリュックにしまい、水筒をまた取り出し、締めにお茶をたんまり飲んだ。水筒をしまい、リュックサックを背負って、席を立った。学習室を出て、階段を下りた。僕はへとへとに疲れていたので、本を眺める余裕もなく、仕方なく帰路につこうとした。図書館を出て、広場を歩いていると、「神島君」と声をかけられた。振り返ると、そこにはクラスメートの桜井莉子が微笑んでこちらを見ていたのだった。