友人の家
僕は昼、自転車をこぎ、龍斗んちに向かい、着いた。
龍斗んちの家もまた一般的な一軒家である。インターホンのスイッチを押し、やや経ち、龍斗の声が聞こえてきた。
「隆一来たか。勝手に上がっていいぜ、親いねえから」
「自転車だけど、いつも通り庭に置かせてもらうわ」
「ああ」
僕は自分の家にはない庭を眺める。物置以外何もない殺風景な庭だった。僕はその庭に自転車を置いた。自転車のかごからバッグを取り出し、玄関のドアの方へと歩いた。
僕はドアを開けて、「失礼します」と礼儀正しくあいさつし、中に入る。すぐ階段があるので、慎重に上がる。龍斗んちは何度も訪れたことがあるが、やはりそれでもどこか緊張する。
僕は龍斗の部屋の前へ行き、「龍斗、入るぞー」と言ってガチャリと真鍮のドアノブを回す。そして、開けると、龍斗はすでに床にあぐらをかいて、テーブルの前で勉強していた。テーブルの上には、教科書や参考書、ノートが広げられ、筆箱が隅にちょこんと乗っている。龍斗はシャーペンを回しながら、入ってきた僕の方に目を向け、「よう!」と威勢よく言った。僕は「うん」とあいまいに返した。
「暑かっただろう。アイスでも食うか?」と龍斗が穏やかに言った。
「ありがとう。でも今はいいわ。何も食べる気にならない」と僕は言った。
「そうか」と龍斗は食い下がらなかった。
僕は床に腰を下ろし、バッグを床に置いた。床といってもカーペットは敷いてあるが。僕はバッグを開け、数学の宿題のプリントと筆箱を引っ張り出す。両方ともテーブルの上に置き、筆箱からシャーペンを取り出す。龍斗の方を見ると、かなり難航しているのか、眉根を寄せて、ノートとにらみ合っている。僕は何気なく声をかけるのは邪魔になるだろうと思ってそうすることを避けた。僕も集中して目の前の宿題に取り組もうと思い、数学のプリントに正解だと思われる解答を書きだした。
それから一時間が経った。僕はふと龍斗の方をちらっと見ると、龍斗はうとうとしていた。僕はシャーペンを置き、龍斗の肩を両手でつかんで軽く揺らした。龍斗ははっと目が覚め、「うっかり寝てたわ」と笑ってそう言った。「起こしてくれてありがとう」とも言った。僕は「うん」と頷いた。
「やっぱりアイス食べね?糖分が足りなくて頭が回らん」と龍斗は額に手をやりながら言った。
「うん、僕も食べたくなってきた」と僕は賛意を示した。
龍斗は立ち上がり、バタバタと一階に駆け下りる。僕は壁にかかったアニメ風のポスターいn目をやった。何のアニメだろうと思っていると、バタバタと階段を駆け上がる音がした。ドアが開く音もした。僕は振り返った。龍斗が満面の笑みで二分して二本になった棒アイスを両手で一本ずつ持っていた。
「はい!」と龍斗は僕に一本の棒アイスを差し出した。
僕は「ありがとう」と言って受け取った。
勉強はいったん中断し、二人で棒アイスをがしゃりがしゃりとかじった。ソーダ味だった。美味しかった。