手紙
ようやく高校の校門まで着いた。僕は膝に手をついてぜえぜえと息をついた。そして、膝から手を放し、見上げた。木造の校舎が建っている。かなり老朽化しており、初めて見たときはずいぶんうらぶれた印象を受けた。校舎は四棟建っている。僕が今目の前で見ているのは二棟目だ。昇降口があるのは二棟目と三棟目である。僕は昇降口までの短い距離に感謝しながら、昇降口にすぐに着いた。下駄箱が並んでいる。校舎内を歩くときはスリッパに履き替えなくてはならない。僕は自分のスリッパがしまってある下駄箱のところまで行き、下駄箱の蓋を開けた。僕はスリッパを取り出そうとした。が、なにやら桃色の手紙用の封筒が足元にさらっと落ちた。僕はやれやれと思って拾い上げると、「隆ちゃんへ」と表側に緑のキラキラペンで書いてあった。裏を見ると「隆ちゃんの大好きな天崎昇華天崎昇華より」と赤のこれまたキラキラペンで書かれていた。僕はたいして内容に興味はなかったが、あとで天崎に手紙のの内容についてしつこく聞かれたら困るので、制服のポケットにしまいこんだ。本当は通学用かばんを持ってきたらそこにしまえばいいのだが、まあ、いらないだろうと判断して持ってこなかった。ゆえに手ぶらである。僕はスリッパに履き替えて、通学用のアディダスのテニスシューズを下駄箱にしまった。僕は廊下を歩いた。歩きながら僕はある妄想にふけっていた。(ああ、手紙の差出人は天崎だったか。まあ、手紙を見た瞬間、すぐにわかってすぐに冷めたけど。天崎からは別に手紙は欲しくないんだよなあ。欲しいのは何を隠そう切井月美さんなんだよなあ。切井さんだったら、あんな小学生みたいな封筒じゃなく、もっとシックな上品な封筒なんだろうなあ。切井さんだったら、やっぱり文字は綺麗なんだろうか。なかなか文字を見る機会がなくて残念至極だ。でもきっと文字は綺麗なんだろうなあ。「神島君へ」と表には書いてあってそれで僕はすぐさま封筒を開ける。すると、中から一枚の折りたたまれた手紙が入っている。僕は急いで手紙を開いて、内容を一読する。たった五文だ。だが、焦って読んでしまったものだから内容をちっとも理解していない。もう一度読む。そしてそこにはこう書かれてあった。「手紙を直接渡せればよかったけど、恥ずかしくてつい間接的な渡し方になってしまってごめんなさい。同じクラスになれて嬉しかった。月並みな言葉だけど、ずっと神島君のことが気になっていたの。神島君を好きな気持ちが抑えられないの。手紙の返事を待っています」。僕はにやにやしながら、廊下を歩いた。見知らぬ先生とすれ違った。その先生は僕のにやけた顔を見て顔をしかめた。だが、僕は気にしなかった。僕は一棟目の一階にある職員室に向かっていた。