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恋はエンドレス  作者: 弓 ユカミ
12/12

切井月美

切井さんは「あっ」と小さく声を上げた。

僕は気恥ずかしかった。僕は頭を片手でさすりながら、「どうも」と短く言った。

「神島君……だよ……ね?」と切井さんは恐る恐る尋ねた。

「そうだよ、知っててくれたんだ。ありがとう、切井さん」と僕は切井さんが自分の存在を認知してくれていたことに嬉しさを覚えた。また、僕はもちろん切井さんの名前を知っていることを明かした。

「私のこと、知ってるんだ」と切井さんは目を細めて微笑んだ。

「当たり前だよ、クラスメートだからね」と僕は自信たっぷりで言った。

「神島君とは一度、話してみたいと思っていたんだ」と切井さんは打ち明けるように言った。「神島君のこと、なんとなく気になっていたの。どんな人なんだろうって想像していたぐらい」

「そうなんだ。なんか嬉しいな。切井さんからそう言ってもらえて。僕も実は切井さんのことが気になっていたんだ。切井さんと一度でもいいから話してみたかった。こうやって話せることができて良かったよ。なかなか切井さんと話せる機会がなくて、むずかゆい思いをしていたところだったから、心底そう思うよ」と僕も打ち明けるように言った。僕はちと感情を吐露しすぎたかと反省した。でも、ここは無理に隠さず素直に話した方が好感を持たれるだろうと思った。

「そうなんだ。じゃあ、お互い気になっていたってことになるね!」と切井さんは上ずった声で言った。

「まさか切井さんが僕のことを知ってて、さらに僕のことを気になってくれているなんてなんだか信じられないよ。まるで夢を見ているみたいだ」と僕は愕然とした表情を浮かべて言った。

「神島君はどうして図書室に?」と切井さんは訊いた。

「えーっと……部活で暇なときに読めるものがあったらなって感じで来たんだ」と僕は嘘を吐いた。

「神島君って何部なの?」

「僕は文芸部だよ。切井さんは何部なの?」

「私?私は一応料理部の所属しているけど、部活動は月一だから、あってないようなものだね。昨月はクッキーを作ったかな」

「クッキーか。切井さんのクッキー、おいしいだろうな」と僕は舌なめずりを抑えて言った。

「味は保証できないな。私のクッキー、美味しいと言う人もいれば、まずいって言う人もいるからさ」

「切井さんの作ったクッキーをまずいなんて言う人がいるんだ。僕は許せないよ、そんなことを言う奴。切井さんが作ったら、なんだっておいしいに決まってる。まずいわけあるもんか」と僕は憤慨した。

「私自身はおいしいと思っているから、逆に参考になることもあるかなと思ってる。まあ、人それぞれ味覚は違うのは当たり前だから、まずいって感想が出てきてもおかしくはないけど、言われた時はちょっとショックだったなー」と切井さんは明らかにある特定人物を思い浮かべたような表情で言った。

「切井さんのクッキーを食べれるだけでも幸せなのに、まずいなんてことをぬかす奴、僕は腹が立って仕方ないよ。そいつ、なんて名前?一発殴り……いや、なんでもない」

「ごめんけど、今ここで名前は明かせない。私にとって大事な人だから」と切井さんは侘びるように言った。

「そうなんだ。まぁ無理に明かす必要はないよ」と僕は内心残念に思った。そして、大事な人というワードが気にかかったが詮索はしなかった。

そして、しばらくの間、沈黙が流れた。気まずい、重々しい、どことなく後ろめたい沈黙だった。沈黙は僕と切井さんの間を走り抜けたかと思うと、振り返って、もとの位置に戻り、僕や切井さんの表情を見て、体育教師のような厳めしい表情で居座った。早くこの沈黙から抜け出したいと思った僕は口を開こうとしたが、途端に頭が真っ白になり、うまい言葉が思いつかなかった。

沈黙は破られるのをいまかいまかと待っていた。厳めしい表情を崩すことなく、微動だにせず、目を閉じ、手をこまねいて、私と切井さんの動向を窺っていた。しかし、両者とも気づまりな沈黙に屈することなく、何かの拍子でこの沈黙が途切れることを祈っていた。

沈黙は不意に破られた。

「月美ちゃん、ここにいたのね」

女子生徒の甲高い声が耳朶に響いた。

「昇華ちゃん」と切井さんは天崎の突然の登場にびっくりしていた。

「あら、隆ちゃんまで。お邪魔だったかしら」

「全然、邪魔じゃないよ、昇華ちゃん」と切井さんは慌てて言った。

「そう……実は月美ちゃんと二人で帰りたいなって思っていたのよ」

「そうなんだ。じゃあ、一緒に帰ろう」と切井さんは僕に目をくれることもなく、天崎と図書室を出ていってしまった。僕は、天崎のわざとらしい発言、表情にむかむかした。切井さんをつけていた僕はまさか天崎につけられていたのではなかろうか。しくった。天崎は油断ならない人物であると思い知った。僕と切井さんがこれ以上仲良くなることを気に食わないのか知らないが、割って入ってきたところを見るに、恐らく僕の今朝の言動を根に持っているのが窺える。まったく。天崎にしてやられた。この悔しさを持てあました僕は、「くそっ」と小さく声を上げた。

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